2016年05月17日

【アジア・新興国】韓国における生命保険市場の現状 - 2015年のデータを中心に -

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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3――収支の概況

2015年第3四半期における生命保険会社の保険料収入総額は、前年同期の25.6兆ウォンから1.6兆ウォン(6.3%増)増加した27.2兆ウォンになった。保険料収入総額で個人保険が占める割合は94.1%(25.6兆ウォン)で、団体保険の5.9%(1.6兆ウォン)を大きく上回った。但し、前年同期比の増加率は団体保険が24.3%で個人保険の6.3%より高かった。団体保険の増加率が高くなった理由としては退職年金の加入増加により保険料収入が大きく増加したことが考えられる。退職年金の保険料収入は、韓国政府の民間年金市場拡大政策と継続保険料の持続的な増加により、対前年同期比30.1%も増加している。
図表4 生命保険の商品類型別保険料収入の推移
生命保険の商品類型別保険料収入の対前年同期比は、生存保険の場合、初回保険料が減少しているにも関わらず継続保険料が増加したことにより4.3%増加した。死亡保険の場合は、老後所得保障機能が付いている年金先払い型の終身保険9が人気を集めた結果、8.9%伸びており、生死混合保険の場合も2014年第2四半期以降の持続的な成長により、4.0%増加した。そして変額保険の場合は、株価上昇の影響により2.0%増加しており、すべての商品の保険料収入が前年より増加する結果となった(詳細は図表4を参照)。
 
9 死亡保険金の一部が老後の生活資金として支払われる商品。

4――市場シェアの推移

4――市場シェアの推移

保険料収入を基準とした市場シェアは、大手3社(サムソン生命、ハンファ生命10、教保生命)の割合が年々減少傾向にあるのが目立つ。2000年には79.9%であった大手3社の市場シェアは、2015年第3四半期には45.9%まで減少している。一方、中小生命保険会社11や外資系生命保険会社の同期間における市場シェアはそれぞれ14.4%、5.7%から40.6%、13.5%まで増加した。
図表5 生命保険業界の市場シェアの動向
特に、中小生命保険会社の市場シェアが大きく増加しているが、その理由としては、銀行が所有している中小生命保険会社がバンカシュアランス販売により自社商品の販売を拡大したこと、2012年3月から農協の農協共済が農協生保と農協損保に分離し市場に参入12したこと、2013年末にING生命が韓国を基盤とするMBKパートナーズ13に売却され、2014年第1四半期から中小型生命保険会社としてカウントされたこと等が挙げられる。このように大手3社の市場シェアが減り、中小生命保険会社の市場シェアが増えることにより、市場への特定企業の集中度を表すハーフィンダール・ハーシュマン・指数14は、2010年0.2471から2015年第3四半期には0.1020まで大きく減少した。

一方、2015年の初回保険料収入を基準とした販売チャネル別シェアは、バンカシュアランスが72.2%で最も高く、次に保険外交員15(19.5%)、代理店(7.3%)の順であった16。バンカシュアランスの割合が大きくなったことにより、保険外交員や代理店の数は年々減少傾向にある。
 
10 2010年9月以前には大韓生命。
11 中小生命保険会社は、上位3社と外資系生命保険会社8社を除いた会社である。
12 従来は協会の外枠であった農協共済が農協生保になることにより業界の枠内に入ってきたのが中・小型生命保険会社のシェアを増加させたと言える。
13 MBKパートナーズは、2005年に設立したアジア最大規模の投資ファンド会社である。
14 ハーフィンダール・ハーシュマン指数(Herfindahl-Hirschman Index、以下、ハーフィンダール指数)とは、ある産業の市場における企業の競争状態を表す指標の一つである。ハーフィンダール指数は、独占状態においては 1となり、競争が広くいきわたるほど0 に近づく。一般的にハーフィンダール指数が0.18以上である場合、市場はかなり集中されていると言われる。
15 韓国では「保険設計士」という名前で言われている。
16 韓国生命保険協会(2016)「月間生命保険統計(2015年12月)」

5――資産運用

5――資産運用

2015年第3四半期の韓国の生命保険会社の資産総額は707兆ウォン(対前年同期比10.4%増)で、運用資産の利回りは4.18%(対前年同期比0.29%ポイント減)に達している。一般勘定資産の中では有価証券が72.8%で最も高い割合を占めており、次は貸出債権(17.4%)、不動産(2.6%)、現金と預金(2.5%)の順であった(運用資産は一般勘定資産の95.3%、図表6)。一般勘定資産の中で不動産が占める割合は年々減少傾向にあるが、その理由としては、生命保険会社の非業務用不動産の所有が原則的に禁止されていることにより、生命保険会社の不動産資産はほぼ変わらないことに比べて、総資産は持続的に増加している点が挙げられる。
図表6 生命保険産業の資産運用の現状

6――おわりに

6――おわりに

本稿では韓国における生命保険市場の現状について紹介した(2015年第3四半期を中心に)。韓国の生命保険市場はすでに飽和状態に至っていると言われており、最近は若年層の保険離れが進んでいる。さらに、2015年の経済成長率は2.6%まで低下しており、今後も低い成長率が維持されることが予測されている。低成長時代の消費者は保険料水準に敏感に反応し、保険の解約までも考えるケースが多い。そこで、韓国の生命保険会社は低成長時代に合わせた商品の開発やマーケティング戦略の確立のための取り組みを強化する必要がある。
韓国の生命保険業界における一つ明るいニュースは、2016年から従業員数300人以上事業所に60歳定年制や退職年金への加入が義務化されることである。保険研究院は大企業の退職年金への加入が義務化されることにより、生命保険の保険料収入は2015年に比べて8.6%増加すると予想している17
日本と同じ悩みを抱えている韓国政府や韓国の生命保険業界の対応は、日本にとっても参考になることが多いだろう。今後の韓国政府や韓国の生命保険業界の対応が注目されるところである。 
 
17 保険研究院(2015)「2016年保険産業の見通しと課題」『2015年次報告書』。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2016年05月17日「保険・年金フォーカス」)

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