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2016年03月15日
ドイツの医療保険制度(1)―被保険者による保険者選択権の自由化により、保険者の集約化が進む公的医療保険制度の現状-
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2|保険者
公的医療保険の保険者は、連邦政府、州政府及び地方自治体から、財政的、組織的に独立した公法上の法人である「疾病金庫(Krankenkassen:health insurance fund)5」となる。疾病金庫6の数は、1992年1月には全国で1,223であったが、各種の公的医療保険制度の改革の動きを受けて、吸収・合併が進んできており、2016年1月には118にまで減少している。
疾病金庫は、(a)地域疾病金庫(AOK)、(b)企業疾病金庫(BKK)、(c)同業組合疾病金庫(IKK)、(d)農業疾病金庫(LKK)、(e)鉱業・鉄道・船員年金保険(KBS)、(f)代替疾病金庫(vdek)という6種類に分類される。
(d)農業疾病金庫(LKK)と(e)鉱業・鉄道・船員年金保険(KBS)は、それぞれに該当する職業従事者のために設立されたものである。(b)企業疾病金庫(BKK)は、企業や企業グループ単位で設立・運営される。(c)同業組合疾病金庫(IKK)は、職業組合単位で設立・運営される。(a)地域疾病金庫(AOK)は、上記のいずれにも該当しない人(小規模企業の被用者、学生、一部の自営業者等)を主な対象に、地域単位で設立・運営される。
公的医療保険の加入者は、基本的には、(1)企業疾病金庫が設立されている企業等に勤務している場合にはその企業疾病金庫、(2)同業組合疾病金庫が設立されている事業所に勤務している場合にはその同業組合疾病金庫、(3)それ以外の場合には勤務地の地域疾病金庫、に加入する。(4)ただし、これらに代わって、労働者(ブルーカラー)は労働者代替金庫(EAR)に、職員(ホワイトカラー)は職員代替金庫(EAN)に加入することができた。なお、2009年に労働者代替金庫と職員代替金庫が統合して代替疾病金庫ができた。
1996年以降、加入者の疾病金庫選択権が拡大され、加入者は疾病金庫を自由に選べることができるようになった。ただし、企業疾病金庫と同業組合疾病金庫については、それぞれの金庫の定款において、認められる場合にのみ選択可能となっている。即ち、これらの疾病金庫は、従来通りの加入者に限定する「閉鎖型疾病金庫」7と、従来の加入者に加えて、他の疾病金庫からの新規加入者も受け入れることとした「開放型疾病金庫」に分かれることとなった。これにより、例えば、企業疾病金庫の場合、従来の閉鎖型では、母体企業からの事務所費や職員給与に対する資金補助等が行われていたが、開放型に移行することで、これらの補助が行われなくなっている。
いずれにしても、これらの改革により、加入者の獲得を巡って、疾病金庫間の競争が行われることになり、これが疾病金庫の再編につながることとなった。なお、2007年4月からは、種類の異なる疾病金庫間の合併も可能となっている。
保険者数という点では、企業疾病金庫の数が多いが、被保険者数という点では、地域疾病金庫と代替疾病金庫の2つで7割程度を占めている。
公的医療保険の保険者は、連邦政府、州政府及び地方自治体から、財政的、組織的に独立した公法上の法人である「疾病金庫(Krankenkassen:health insurance fund)5」となる。疾病金庫6の数は、1992年1月には全国で1,223であったが、各種の公的医療保険制度の改革の動きを受けて、吸収・合併が進んできており、2016年1月には118にまで減少している。
疾病金庫は、(a)地域疾病金庫(AOK)、(b)企業疾病金庫(BKK)、(c)同業組合疾病金庫(IKK)、(d)農業疾病金庫(LKK)、(e)鉱業・鉄道・船員年金保険(KBS)、(f)代替疾病金庫(vdek)という6種類に分類される。
(d)農業疾病金庫(LKK)と(e)鉱業・鉄道・船員年金保険(KBS)は、それぞれに該当する職業従事者のために設立されたものである。(b)企業疾病金庫(BKK)は、企業や企業グループ単位で設立・運営される。(c)同業組合疾病金庫(IKK)は、職業組合単位で設立・運営される。(a)地域疾病金庫(AOK)は、上記のいずれにも該当しない人(小規模企業の被用者、学生、一部の自営業者等)を主な対象に、地域単位で設立・運営される。
公的医療保険の加入者は、基本的には、(1)企業疾病金庫が設立されている企業等に勤務している場合にはその企業疾病金庫、(2)同業組合疾病金庫が設立されている事業所に勤務している場合にはその同業組合疾病金庫、(3)それ以外の場合には勤務地の地域疾病金庫、に加入する。(4)ただし、これらに代わって、労働者(ブルーカラー)は労働者代替金庫(EAR)に、職員(ホワイトカラー)は職員代替金庫(EAN)に加入することができた。なお、2009年に労働者代替金庫と職員代替金庫が統合して代替疾病金庫ができた。
1996年以降、加入者の疾病金庫選択権が拡大され、加入者は疾病金庫を自由に選べることができるようになった。ただし、企業疾病金庫と同業組合疾病金庫については、それぞれの金庫の定款において、認められる場合にのみ選択可能となっている。即ち、これらの疾病金庫は、従来通りの加入者に限定する「閉鎖型疾病金庫」7と、従来の加入者に加えて、他の疾病金庫からの新規加入者も受け入れることとした「開放型疾病金庫」に分かれることとなった。これにより、例えば、企業疾病金庫の場合、従来の閉鎖型では、母体企業からの事務所費や職員給与に対する資金補助等が行われていたが、開放型に移行することで、これらの補助が行われなくなっている。
いずれにしても、これらの改革により、加入者の獲得を巡って、疾病金庫間の競争が行われることになり、これが疾病金庫の再編につながることとなった。なお、2007年4月からは、種類の異なる疾病金庫間の合併も可能となっている。
保険者数という点では、企業疾病金庫の数が多いが、被保険者数という点では、地域疾病金庫と代替疾病金庫の2つで7割程度を占めている。
5 「Krankenkassen」の英訳は「health insurance fund」であり、日本語訳も「健康保険基金」となるが、一般的な呼び方である「疾病金庫」という用語を使用している(日本の「健康保険組合」に相当するものである)。以下、英訳は、疾病金庫中央連合会(GKV-Spitzenverband:The National Association of Statutory Health Insurance Funds)や民間医療保険会社連盟(Verband der Privaten Krankenversicherung)のWebサイト(英語版)等から引用している。
6 疾病金庫は、医療保険や介護保険だけでなく、年金保険、失業保険、労災保険の全ての社会保険の保険料徴収機関として機能している。
7 閉鎖型の疾病金庫の加入者も他の疾病金庫へ移動することはできる。
3|給付
(1)給付の種類
公的医療保険による給付は、基本的には法律により統一されたものであるが、一部、疾病金庫の規約に基づく付加給付が行われる。これらの給付は、原則「現物給付8」で行われる。大きくは、1)予防・早期発見給付、2)疾病給付、3)傷病手当金、に区分される。
1)予防・早期発見給付
疾病の予防及び早期発見のための給付で、予防接種や予防診療、避妊・不妊・妊娠中絶に関するサービスも含まれる。さらには、乳幼児健康診断、心臓・循環器病、腎臓病、糖尿病を対象とする健康診断、がん検診に加えて、歯科検診等が含まれる。
2)疾病給付
医師・歯科医師による外来診療、歯科診療、歯科矯正、薬剤・包帯類供給、各種療法、入院療養費、訪問看護療養・家事援助、医学的リハビリテーションが含まれる。さらには、人工授精や社会療法、入院・外来ホスピス、ストレステスト・作業療法等も含まれる。
3)傷病手当金(Krankengeld)
疾病・事故による就業不能に伴う所得保障のための「現金給付」で、疾病・事故により就業不能となった被保険者に対して、1日につき、総収入(Bruttoarbeitsentgelt)の70%(ただし、税・社会保険料等を控除した純収入(Nettoarbeitsentgelt)の90%以下)が支給される。就業不能になった最初の6週間は雇用者が給料・賃金を継続して支払うこととされているので、公的医療保険による手当の支給は就業不能から7週間目からとなる。同一疾病・事故につき3年間で(雇用者による支払い分を含めて)最長78週間支給される。
(参考)給付額の内訳
2014年度暫定ベースでの総給付額は、約193.63十億ユーロで、その内訳は以下の図表の通りとなっている。入院療養費が67.86十億ユーロで35.0%(2004年度は36.0%、以下同様)、医師・歯科医師の診療費が43.26十億ユーロで22.3%(22.5%)、医薬品が33.43十億ユーロで17.3%(16.1%)、傷病手当金が10.62十億ユーロで5.5%(4.9%)を占めている。
入院療養費が最大の支出項目であるが、ここ10年間では、その構成比は若干低下し、医薬品や傷病手当金の構成比が高まってきている。なお、医師療養費の構成比は上昇しているが、歯科医師療養費の構成比は低下している。
(1)給付の種類
公的医療保険による給付は、基本的には法律により統一されたものであるが、一部、疾病金庫の規約に基づく付加給付が行われる。これらの給付は、原則「現物給付8」で行われる。大きくは、1)予防・早期発見給付、2)疾病給付、3)傷病手当金、に区分される。
1)予防・早期発見給付
疾病の予防及び早期発見のための給付で、予防接種や予防診療、避妊・不妊・妊娠中絶に関するサービスも含まれる。さらには、乳幼児健康診断、心臓・循環器病、腎臓病、糖尿病を対象とする健康診断、がん検診に加えて、歯科検診等が含まれる。
2)疾病給付
医師・歯科医師による外来診療、歯科診療、歯科矯正、薬剤・包帯類供給、各種療法、入院療養費、訪問看護療養・家事援助、医学的リハビリテーションが含まれる。さらには、人工授精や社会療法、入院・外来ホスピス、ストレステスト・作業療法等も含まれる。
3)傷病手当金(Krankengeld)
疾病・事故による就業不能に伴う所得保障のための「現金給付」で、疾病・事故により就業不能となった被保険者に対して、1日につき、総収入(Bruttoarbeitsentgelt)の70%(ただし、税・社会保険料等を控除した純収入(Nettoarbeitsentgelt)の90%以下)が支給される。就業不能になった最初の6週間は雇用者が給料・賃金を継続して支払うこととされているので、公的医療保険による手当の支給は就業不能から7週間目からとなる。同一疾病・事故につき3年間で(雇用者による支払い分を含めて)最長78週間支給される。
(参考)給付額の内訳
2014年度暫定ベースでの総給付額は、約193.63十億ユーロで、その内訳は以下の図表の通りとなっている。入院療養費が67.86十億ユーロで35.0%(2004年度は36.0%、以下同様)、医師・歯科医師の診療費が43.26十億ユーロで22.3%(22.5%)、医薬品が33.43十億ユーロで17.3%(16.1%)、傷病手当金が10.62十億ユーロで5.5%(4.9%)を占めている。
入院療養費が最大の支出項目であるが、ここ10年間では、その構成比は若干低下し、医薬品や傷病手当金の構成比が高まってきている。なお、医師療養費の構成比は上昇しているが、歯科医師療養費の構成比は低下している。
8 被保険者に医療が現物給付できなかった場合等には、保険者から費用償還が行われる。
(2)選択タリフ
公的医療保険競争強化法に基づいて、2007年4月から、「選択タリフ(Wahltarife)」が導入された。これは、法定給付に加えて、疾病金庫が様々な給付プログラムを提供するもので、加入者が選択し、対応した保険料を支払うことになる。
選択タリフ導入の目的は、加入者の保障選択の自由度を高めることで、1)加入者の給付の充実を図るとともに、2)加入者のコスト意識を醸成する、ことにあるが、一方で、こうした民間医療保険に準じた任意給付の提供で、疾病金庫間の競争を促すことにある。
(2-1)選択タリフの種類
選択タリフには、A疾病金庫が必ず提供しなければならないもの、B疾病金庫が任意に提供できるもの、がある。例えば、以下のようなものが挙げられる。
公的医療保険競争強化法に基づいて、2007年4月から、「選択タリフ(Wahltarife)」が導入された。これは、法定給付に加えて、疾病金庫が様々な給付プログラムを提供するもので、加入者が選択し、対応した保険料を支払うことになる。
選択タリフ導入の目的は、加入者の保障選択の自由度を高めることで、1)加入者の給付の充実を図るとともに、2)加入者のコスト意識を醸成する、ことにあるが、一方で、こうした民間医療保険に準じた任意給付の提供で、疾病金庫間の競争を促すことにある。
(2-1)選択タリフの種類
選択タリフには、A疾病金庫が必ず提供しなければならないもの、B疾病金庫が任意に提供できるもの、がある。例えば、以下のようなものが挙げられる。
(2-2)選択タリフの提供と加入者による選択
各疾病金庫は、選択タリフの内容を任意に設計することができる。提供される各選択タリフのいずれかを選択するかどうかは、加入者の判断に委ねられる。ただし、加入者の選択タリフの選択に向けて、それぞれの選択タリフの内容に応じたインセンティブが付与されている。
なお、一度選択タリフを契約した加入者は、失業等の場合を除き、3年間(一部の選択タリフは1年間)その契約を変えることができない。
(3)自己負担
疾病給付を受けた場合には、被保険者が負担する自己負担金がある。例えば、入院診療時は1日10ユーロ(毎年28日の上限有)、薬剤・包帯類等は費用の10%(下限5ユーロ、上限10ユーロ等)となっている。ただし、一部自己負担を免除されるケース(18歳未満のこども、青少年等)があり、さらに所得に対する負担限度額(一般患者の場合、年間所得の2%等)も設定されている。なお、外来診療に対する一部自己負担は、2004年に導入されたが、2013年に廃止された。
各疾病金庫は、選択タリフの内容を任意に設計することができる。提供される各選択タリフのいずれかを選択するかどうかは、加入者の判断に委ねられる。ただし、加入者の選択タリフの選択に向けて、それぞれの選択タリフの内容に応じたインセンティブが付与されている。
なお、一度選択タリフを契約した加入者は、失業等の場合を除き、3年間(一部の選択タリフは1年間)その契約を変えることができない。
(3)自己負担
疾病給付を受けた場合には、被保険者が負担する自己負担金がある。例えば、入院診療時は1日10ユーロ(毎年28日の上限有)、薬剤・包帯類等は費用の10%(下限5ユーロ、上限10ユーロ等)となっている。ただし、一部自己負担を免除されるケース(18歳未満のこども、青少年等)があり、さらに所得に対する負担限度額(一般患者の場合、年間所得の2%等)も設定されている。なお、外来診療に対する一部自己負担は、2004年に導入されたが、2013年に廃止された。
(2016年03月15日「基礎研レポート」)
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中村 亮一のレポート
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