2016年02月10日

東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2016年)-2016年~2022年のオフィス賃料・空室率

竹内 一雅

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introduction

東京都心部Aクラスビル市況は、昨年に引き続き市場の改善が進んでいる。特に空室率の改善は大きく、成約賃料も2013年以降の新規供給がさほど多くなかったことから上昇がみられた。ただし、大規模ビルでのまとまった空室が少なくなる中で需要の伸びは縮小してきている。本稿では東京都心部のAクラスオフィス市況を概観した上で、2022年までの賃料と空室率の予測を行う。

 
目次

1.はじめに
2.東京都心部Aクラスビルの空室率・賃料の推移
3.東京都心部Aクラスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
4.今後のAクラスビル新規供給、都区部オフィスワーカー数の見通しと経済見通し
5.東京都心部Aクラスビル市況見通し
6.おわりに

1.はじめに

1.はじめに

東京都心部Aクラスビル市況は、昨年に引き続き市場の改善が進んでいる。特に空室率の改善は大きく、成約賃料も2013年以降の新規供給がさほど多くなかったことから上昇がみられた。ただし、大規模ビルでのまとまった空室が少なくなる中で需要の伸びは縮小してきている。本稿では東京都心部のAクラスオフィス市況を概観した上で、2022年までの賃料と空室率の予測を行う
 

 
  1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区業務地区とその他オフィス集積地域)や延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルをBクラスビルとしている。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2016」を参照のこと。賃料は月坪当りの共益費を除く成約賃料。
  2 2015年の見通し結果は竹内一雅「東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2015年)-2015年~2021年のオフィス賃料・空室率」(2015.2.12)ニッセイ基礎研究所、2014年の見通し結果は竹内一雅『東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2014年)-2014年~2020年のオフィス賃料・空室率』(2014.2.5)ニッセイ基礎研究所を参照のこと。

2.東京都心部Aクラスビルの空室率・賃料の推移

2.東京都心部Aクラスビルの空室率・賃料の推移

東京都心部Aクラスビルの市況は改善が進んでいる。空室率は2012年第4四半期(以下Q4期とする)の9.2%から大幅な低下が続いている。2015年前半に大規模ビルの竣工で空室率の一時的な上昇があったが、過去一年間で空室率は4.0%から3.3%へ改善した(図表-1)。成約賃料(オフィスレント・インデックス)は2015年Q1期からQ3期に大幅な上昇があったがQ4期の下落により、2015年Q4期の賃料は32,872円/坪で、前年同期比+7.5%の上昇となった。
都心部Aクラスビルの空室率とオフィスレント・インデックス
東京都心5区の賃貸オフィス市場は、Aクラスビル以外でも改善が進んでいる(図表-2)。最近では中型ビルと小型ビルでの空室率の低下が加速し、大規模ビルとの空室率の格差が縮小している。ただし、足元では小型ビルにおいて空室率の下落ペースの縮小も見られる。
東京都心部のAクラスビルとBクラスビルの空室率の推移を見ると、Aクラスビルは2012年の都心部での大量供給時に空室率が大幅に上昇したが、Bクラスビルの空室率は上昇せず、2011年Q1期(7.7%)以降、下落が続いている(図表-3)。2015Q4期の空室率はAクラスビルで3.3%、Bクラスビルで3.2%だった。
三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発したオフィスレント・インデックスによると、Aクラスビルはリーマンショック後の底値から2015年Q4期までに+66.8%上昇し、Bクラスビルは+45.0%の上昇となった(図表-4左図)。Aクラスビルの賃料は2015Q4期に下落が見られたが、Bクラスビルでは2015年初めからほぼ横ばいで推移している。
オフィスレント・インデックスの前年同期比変化率をみると(図表-4右図)、Aクラスビルの賃料上昇は15四半期続いており、ファンドバブル期の賃料上昇期の16四半期の上昇や、リーマンショック後の下落期の14四半期の下落にほぼ並んでいる。すでに4年近く賃料上昇期が続いており、過去の賃料サイクルから考えると、Aクラスビルでは賃料下落リスクが高まりつつある。
東京都心5区の規模別の空室率、東京都心部Aクラスビル・Bクラスビル空室率、東京都心部Aクラスビル・Bクラスビルオフィスレント・インデックス
 

 
  3 Aクラスビル、Bクラスビルの定義は脚注1を参照のこと。

3. 東京都心部Aクラスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積

3. 東京都心部Aクラスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積

東京都心Aクラスビルの空室率は着実に低下している。Aクラスビルの賃貸面積が新規供給にあわせて増加したことや、賃貸可能面積が若干減少したことなどから、2015年末時点の空室面積は2012年Q4期のピークの40%まで低下してきた(図表-5左図)。なお、Aクラスビルの賃貸面積の前年比増分は2013年をピークにしだいに減少傾向にある(図表-5右図)。
三鬼商事のデータから都心5区全体の状況をみると、2015年の賃貸面積の増加は10万坪を上回っており、空室面積は約10万坪の減少と好調が続いている(図表-6左図)。月次の面積変化を見ると、消費税率の引き上げから半年後の2014年10月から賃貸面積の前月比増分が大幅に縮小しており、2015年に月次で2万坪以上の増加が見られたのは大規模ビルの新規供給時の2回のみだった(図表-6右図)。2015年の空室面積の減少(▲10万坪の減少)の約半分は、賃貸可能面積の減少によるものと考えられる。現在、築浅の大規模ビルではまとまった空室が確保できなくなっているといわれており、こうした事情も新規の拡張移転などを抑制している可能性がある。
東京都心部Aクラスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積、東京都心5区オフィスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
 

 
   2015年は品川シーズンテラスや東京日本橋タワー、大崎ブライトタワー・ブライトコア、鉄鋼ビル、大手門タワー・JXビルなどの大規模ビルの供給があった。Aクラスビルの賃貸可能面積の減少は、取り壊しや募集停止に加え、築年が経過するなどAクラスビルの要件からはずれた場合に生じる。
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竹内 一雅

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