2016年01月05日

年金改革ウォッチ 2016年1月号~ポイント解説:次期年金改革の方向性と課題

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ――― 先月までの動き

2015年1月以来の開催となった年金部会では、公的年金の積立金の運用機関である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)について、議論が行われました。12月25日はガバナンスが論点となり、現在の実質的な合議制を法律に明記する方向で、具体的な内容が議論されました。次回は、運用方法について議論される予定です。
 
○社会保障審議会 年金部会
12月8日(第31回)テーマ 年金制度に関する状況報告、年金積立金の管理運用に係る法人 ほか
URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000106438.html    (配布資料)
 
12月25日(第32回)テーマ 年金積立金の管理運用に係る法人のガバナンスの在り方
URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000108144.html    (配布資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
12月8日(第19回) テーマ 日本年金機構の業務改善に向けての審議
URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000106418.html    (配布資料)
 

2 ――― ポイント解説:次期年金改革の方向性と課題

図表1 次期改正に向けた検討課題と見直しの方向性 2015年12月8日の社会保障審議会年金部会では、通常国会への法案提出に向けて、次期年金改革の方向性が示されました。本稿では、その概要と残されている課題を確認します。

1│次期年金改革の方向性:年金財政の安定性改善と厚生年金の適用拡大は、前進。
次期年金改革に向けては、2014年6月に年金財政の見通し等が公表され、それを受けて2015年1月に年金部会が議論の整理を公表していましたが、昨年は法案が国会提出されませんでした。12月8日の同部会では、これまで政府与党間で調整してきた内容が報告され、法案提出に向けてさらに調整していく方針が示されました。

制度の見直しが予定されている項目をみると、年金部会での議論は少なかったものの「賃金スライドの徹底」1が盛り込まれており、年金財政の安定性改善が期待されます。また厚生年金の適用拡大は、2016年10月から正規従業員2501人以上の企業に勤める一部の短時間労働者に実施することが既に法改正されています。当初はこれを前倒しする意見もありましたが前倒しは見送られ、2016年10月から500人以下の企業でも任意拡大できるよう、政府与党間で調整が行われています。
 
図表2 基礎年金の国庫負担の見通し 2|残されている課題:基礎年金の水準低下。国庫負担の減らしすぎや財政構造の見直しが必要。

見直しが予定されている項目がある一方、低~中所得者への影響が大きい基礎年金の水準低下問題への対策は、見送られています。この背景には、水準低下を抑制すると国庫負担(補助)が想定より増加して国家財政が悪化する、という財務省等の指摘があります。しかし、2014年の見通しでは、現在の制度へ改正された2004年当時の見通しと比べて、国庫負担が大きく減る見込みです(図表2)。これを踏まえ、「増加」ではなく「減らしすぎからの改善」という視点での議論も、必要でしょう。

また、基礎年金の水準低下防止に向けては、60~64歳への国民年金適用などの対処療法だけでなく、この問題の原因である年金財政のいびつな構造への対処3が不可欠です。将来世代に問題を先送りしないよう、根本的な対策が期待されます。
 
 
1 詳細は拙稿「特例水準解消後の年金スライドの課題」『ニッセイ基礎研REPORT』2011年12月号、を参照。
2 人厳密には、現在の基準で厚生年金が適用される従業員。改正後の基準で適用される従業員ではない点に、要留意。
3 具体的には、(1)加入者全員に共通の基礎年金の給付水準が、自営業などが関係する国民年金財政だけに左右される、(2)基礎年金の給付水準が低下すると厚生年金の給付削減が緩和されるため、低~中所得勤労者への影響が大きい、などの問題。詳細は拙稿「年金数理部会の指摘と今後の年金改革への影響」『年金ストラテジー』2011年6月号、同「年金改革ウォッチ 2014年11月号~ポイント解説:給付削減の1・2階同時終了」を参照。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

(2016年01月05日「基礎研レター」)

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