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- 景気ウォッチャー調査(15年12月)~先行きは原油価格急落の影響、中国経済を 巡る懸念が重石
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1.景気の現状判断DI:2ヵ月ぶりの改善も、5ヵ月連続で50を下回る
景況感は夏場にかけて足踏みが続き、8月以降原数値が好不況の分かれ目である50を5ヵ月連続で下回るなど、依然停滞感が拭えない。12月調査では、パリのテロ事件を受け海外情勢への不透明感が高まっていることや中国の景気減速への懸念が景況感の重石となる一方で、年末年始の季節需要や訪日外国人旅行客による観光需要が改善要因となった。また、前回調査で悪化した家計動向関連は、暖冬による冬物商材の不振が影響したものの、ボーナス・クリスマス商戦が下支えとなり景況感は幾分改善している。
コメントをみると、中国の景気減速・株安関連やテロ事件関連のものが多く、海外情勢への懸念が根強いことが窺える(最終頁の図参照)。引続きインバウンド需要への期待が高いものの、円安による物価上昇や海外情勢への懸念など不安材料が多いことが、景況感の停滞感を一段と強めている。
2.年末年始の季節需要、インバウンド需要が下支え
家計動向関連は、サービス関連(前月差+1.9ポイント)、住宅関連(同+0.6ポイント)が小幅な上昇に留まるなか、飲食関連(前月差+8.3ポイント)が大幅に上昇したことが景況感の改善に寄与した。

企業動向関連は、製造業(前月差▲1.9ポイント)が前月から低下する一方で、非製造業(同+3.8ポイント)は2ヵ月連続で上昇した。製造業では、「消費者には節約志向が強く、販売数量等の減少が著しい。当面は回復の兆しがみえず、苦しい状況である」(東海・食料品)など個人消費の弱さを危惧するコメントのほか、「やや良くなっている業種とそうでない業種の差が大きくなっている。特に、中国製品が破格の安さで入ってくるため、国内価格が混乱している」(近畿・金属製品製造業)といったように、中国の景気減速の影響を不安視するコメントも依然多い。非製造業については、引き続きインバウンド需要が下支えとなっていることに加え、円安の一巡によって物価上昇への懸念が幾分和らいだことも、景況感に対してプラスに働いたようだ(最終頁の図参照)。
雇用関連は、2ヵ月連続の改善となり引き続き雇用情勢が改善基調にあることを示す結果となった。「依然として、業種職種に関係なく人手不足が続いている。特に、介護業界では応募者を増やすのはもちろんのこと、離職者を減らすことにも力を注ぐことが増えており、例えば育児支援を充実させることなどを実施している企業がある」(南関東・職業安定所)や、「求人数が大幅に増加しているし、有効求人倍率も上昇しているため、景気は上向いている。しかしながら求職者数は増加せず、企業からの求人依頼に応じられないことが多くなっている」(九州・人材派遣会社)といったコメントからも、労働需給の逼迫した状況が窺える。
3.先行きは原油価格急落の影響、中国経済を巡る懸念が重石

家計動向関連は、「入学、卒業シーズンに入るので専門店の商品を買う客がいくらか増える」(九州・商店街)や「セールに期待しているほか、春物の立ち上げも意識的に早めていく」(近畿・百貨店)など、卒業・就職シーズンやクリアランスセールの消費押し上げを期待するコメントが見受けられた。その一方で、「年末でボーナスが出たのか、来客数は増加したが、ボーナスの効果がなくなると、また減少する」(近畿・一般レストラン)といったように、ボーナス商戦の反動の影響を危惧するコメントや、「米国の利上げや原油価格の低下、新興国経済の減速など、景気に対する不透明感が大きく、客の消費マインドが上がらないと予想される」(近畿・スーパー)など、中国をはじめとする新興国経済の動向や原油価格の急落を危惧するコメントが目立った。
企業動向関連は、「景気が良くなる理由が見当たらない。海外にはテロ、中国経済の減速や米国利上げの影響等、不安要素が多く、何かのきっかけで国内景気が落ち込むことを警戒する人が多いと感じる」(東海・化学工業)といったコメントからも、企業は海外景気への警戒感を強めていることが窺える。これまで原油価格の下落を好感するコメントが一部の業種で散見されていたが、最近では「円安や原油安は、製造業にとってはプラスに働くと考えているが、単純な話ではなさそうである」といったように、原油安の影響を不安視する声が上がっている。
雇用関連は、「来年度に向けて、採用枠の拡大を検討する企業が増えてきていると感じる」(東海・人材派遣会社)など、来年度も引続き雇用の拡大を見込むコメントが多く見受けられた。
個人消費の低迷が続くなか、訪日外国人客による観光需要などが景況感の下支えとなっているものの、中国経済の動向など海外情勢の不透明感もあり、景況感は足踏み状態が続いている。また、個人消費は名目賃金の持ち直し、物価上昇率の低下による実質所得の押し上げなどから回復しているものの、そのペースは緩やかに留まっており、景況感を押し上げるまでには至っていない。
2016年に入ってから中国の景気減速に対する懸念が再浮上したことに加え、サウジアラビアによるイランとの外交関係断絶や北朝鮮による核実験といった地政学リスクの高まりを受けて株安・円高が進行している。こうした状況が続けば企業マインドの悪化だけでなく、消費者心理を冷やしかねない。新たな押し上げ材料が不在のなか、相次ぐ不安材料が下押し要因となることから、次回調査では景況感の悪化は避けられないだろう。
(2016年01月13日「経済・金融フラッシュ」)
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