2015年12月28日

ドイツ財務省が責任準備金評価用の最高予定利率の撤廃提案を撤回

保険研究部 研究理事   中村 亮一

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4―今回の財務省の10月提案の撤回表明とそれに対する反応

今回12月17日に、財務省が、「責任準備金評価利率を撤廃する」という10月の提案を撤回し、「2016年1月以降も、引き続き現在の制度を継続する」方針である、ことが明らかにされた。ここでは、この考え方の背景及びこうした動きに対する関係団体の反応を報告する。


1|今回の財務省の提案撤回

財務省によれば、「監督ツールとしての最高予定利率は、当分の間(for the time being)、維持される。」模様である。ただし、いずれにしても、「2018年の生命保険改革法のレビューの中で、監督手段としての最高予定利率の必要性等については検討されることになる。」模様である。従って、10月の提案の考え方を完全に撤回したわけではない。その背景としては、「このような重要な変革については、新しいソルベンシーIIという監督規制が実際にスタートした後、その評価をしっかり踏まえた上で行うのがより適当である。」との意見も踏まえたものとする、との考え方があるようである。

なお、2016年1月からの最高予定利率の水準についても、現行の1.25%の水準を据え置くこととした。ただし、これについても、2017年1月以降の水準の引き下げ等の可能性を否定しているわけではない。


2|今回の財務省の提案撤回に対する関係団体の反応

(1)GDV(ドイツ保険協会)

GDVは、今回の決定を歓迎する旨を表明するとともに、Jörg von Fürstenwerth会長は、「最高予定利率規制の継続は、特にソルベンシーIIに関連して、適切である。」と述べた。

(2)DAV(ドイツアクチュアリー会)

DAVは、そのプレス・リリースの中で、今回の決定を歓迎する旨を表明しているが、同時に、Wilhelm Schneemeier会長は、「これまで証明されてきた慎重な責任準備金評価制度を存続させることになり、長期退職貯蓄商品にとって重要なことである。」と述べた。さらに、「引き続き、DAVが提案する2段階方式の最高予定利率設定案に基づいて、今後の最高予定利率水準のあり方を議論していく必要がある。」ことを主張した。

なお、DAVは、2016年初めには、2017年1月から適用される最高予定利率水準に関する推奨を行うことを予定しているが、現在の制度を前提とすれば、2017年1月以降も引き続き1.25%の水準を維持することを推奨していく方針のようである。
 
(参考)DAVの提案する2段階方式2

保証利率付商品に対する顧客のニーズに応えていくためには、引き続き最高予定利率の概念が必要である、との考え方をベースとしつつ、一方で、2016年1月から導入されるソルベンシーIIにおける責任準備金評価の割引率水準設定の考え方とのバランスも図る必要がある、との考え方から提案されている。

具体的には、最高予定利率については、ソルベンシーIIで定められたUFR(終局フォワードレート)(ユーロの場合の水準は4.2%)を参照する形で、新たな「2段階方式」の見直し案を提案している。
DAVの提案する2段階方式
この2段階方式案は、以下の考え方に基づいている。

 (1)最初の15年間はヘッジ可能な金利リスクに対応するものとして、流動性がある市場に投資することで、資産と負債のマッチングが可能な形で運用できる水準に設定する。

 (2)16年目以降については、ヘッジ不可能なリスクに対応するものとして、再投資リスクや長期の均衡金利を考慮して設定する。

 (3)従って、15年の期間はあくまでも契約時におけるものであり、16年目に予定利率が変化する時期は契約時に固定され、毎年度の決算で変更されていくわけではない。

このように、DAVが提案している責任準備金評価用の最高予定利率水準の設定ルールの見直しの方式については、新しいソルベンシーIIが導入される中で、長期均衡金利としてのUFRを参照する形にすることで、過去の平均金利のみに基づくのではなく、中長期的な将来金利水準も反映する考え方を採用している。

(3)BVK(ドイツ連邦保険ブローカー協会)

Michael H. Heinz会長は、「引き続く低金利にも関わらず、生命保険は私的年金において重要な位置付けを有しているものである。(今回の決定により)商品の魅力が維持し続けられるだろう。」と述べた。
 
 
2 2014年9月や2015年4月に発行された、DAVの雑誌「Aktuar Aktuell(Actuarial News)」の記事に基づいている。

5―まとめ

今回の責任準備金評価用の最高予定利率問題については、取りあえず決着を見た形になっているが、これはあくまでも暫定的な決着であり、結論を先送りしたことに過ぎない。

そもそも、経済価値ベースの責任準備金評価制度をソルベンシー規制目的で採用した場合に、一方で監督会計上の責任準備金評価をどのような形で行っていくべきなのか、という点は、引き続き大きな検討課題として残されている。

財務省提案が今回撤回された背景には、監督会計上の責任準備金評価のための最高予定利率水準に対する上限規制がなくなることで、本当に健全な保険料率設定等が確保されていくのか、契約者にとってメリットのある形で配当を含めた価格設定等が行われていくのか等について、極めて懐疑的な意見があることが挙げられる。

いずれにしても、今回、財務省の提案が覆されたということは、このような重要な監督規制の変更については、拙速に進めることは適当ではなく、十分な議論と検証等を踏まえた上で、慎重に対応していくことが重要である、ということを再認識させられた形になっている。そもそも、2016年からスタートするソルベンシーIIが、実務的にも本当にうまくワークしていくのかという点については、世界中が注目している。さらには、そうしたEU全体の監督規制の枠組みの中で、EU各国の監督当局が、どのような形で各国独自の監督規制に対して必要な見直しを行っていくのかについては、大変関心が高い事項である。

その意味でも、ドイツの財務省やBaFin(連邦金融監督庁)が、今回の責任準備金評価用の最高予定利率問題について、DAVの提案等も踏まえながら、今後どのような形で対応していくのかについては、極めて興味深い話題であり、引き続き、今後の議論の方向性をフォローしていくこととしたい。
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保険研究部   研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

(2015年12月28日「基礎研レター」)

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