2015年11月30日

J-REIT市場の収益見通し~現在の市場環境下、5年間で14%成長を見込む~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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ただし、国内外の投資マネーが不動産売買市場に流入し不動産の取引利回りが低下するなか、これまでのように利回り上昇に資する外部成長は難しくなっている。CBREの投資家調査(2015年10月)によると、東京オフィスの期待利回りは3.75%となり調査開始以来の最低値を更新した。オフィスビルより相対的に利回りの高い住宅や倉庫、ホテルも軒並み水準を下げている(図表―9)。実際、2015年の取得物件と既存ポートの利回りスプレッドは0.1%に縮小しており、外部成長ペースが今後鈍化する可能性も考えられる。
 
(図表-9)不動産の期待利回り
財務戦略は分配金増加にプラス寄与。引き続き支払利息の減少を見込む

日銀による2度の追加緩和を背景に市場金利は一段と低下し、10年国債利回りは0.5%を下回る水準が定着している(図表―10)。J-REIT の負債利子率も低下基調をたどっており、財務戦略が支払利息の減少を通じて分配金の増加に寄与している。

J-REIT の負債利子率は2007年頃から上昇を開始した。途中、世界的な金融危機が波及し借入金のリファイナンスに苦労する時期を経験し2010年には1.8%まで上昇した。その後は金融緩和の効果が浸透し、低い金利でのリファイナンスや新規の借入調達のたびに負債利子率が低下し、2015年上期は1.2%である。
(図表-10)J-REIT負債利子率と10年国債利回り
J-REITによる投資法人債の発行条件を確認すると、2015年上期の利率は平均0.6%、期間は7.8年であった(図表―11)。良好な資金調達環境のもと、利率の低下と期間の長期化を同時に実現しており、負債利子率の低下余地は依然大きいと考えられる。
 
(図表-11)投資法人債の発行条件

4――今後5年間の分配金成長率

それでは、各運用戦略に係わるシナリオを想定し、今後5年間の分配金成長率を試算する。内部成長戦略については、ニッセイ基礎研究所の公表する6都市(東京、大阪、名古屋、福岡、札幌、仙台)のオフィス賃料予測2を利用してオフィスビルのNOIを計算し、「オフィスビル以外のアセット」のNOIは横ばいとした。外部成長戦略及び財務戦略については、最近の運用状況を勘案し年1兆円(利回り5.0%)の物件取得と利率0.6%(借入期間8年)のリファイナンス及び新規借入を想定した(その他の前提は稿末に記載)。

試算によると、今後5年間の分配金成長率は14%(年平均2.7%)となった(図表―12)。当初3年は平均3%強の成長を見込み、後半2年は1%成長に鈍化するものの期間を通じて増益を維持する結果となった。なお、後半の鈍化は、ニッセイ基礎研究所の賃料予測(東京)において2017年から賃料下落を予想し既存物件の内部成長がマイナスに寄与するためである。
 
(図表-12)今後5年間の分配金見通し

5――おわりに

本稿では、一定の外部環境を前提に今後の分配金成長率を計算したが、各社の運営努力や独自の成長戦略は予測に含まれていない。この成長率をベースにさらなる業績の上積みを期待したい。また、J-REITの減価償却費についても触れたい。今回はその使途を特定しなかったが、J-REITの運用資産が拡大するなか今後5年間で約1兆円の減価償却費(フリーキャッシュフロー)が生じることになる。この自由に使える資金をいかに活用して投資主価値の最大化を図るのか、各社の運用方針にも注目したい。
主な前提条件
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

(2015年11月30日「基礎研レポート」)

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