- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 保険計理 >
- 成績は本当に良くなったの?-見かけの成績改善にはご用心
成績は本当に良くなったの?-見かけの成績改善にはご用心

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
成績が、会社や個人の活力や、やる気を引き出すバネとなることは結構なことだろう。成績向上のために、経営施策を工夫したり、仕事のスキルを磨いたり、勉強して知識を身に付けるのであれば、それは意味があることだろう。しかし、そうした実力の向上ではなく、単に見かけの成績を良くしようとして、いろいろと画策することは空しい。
次のような例を考えてみよう。住宅販売を手がけるある会社は、11の営業支店を持っている。1年間の販売物件数の実績に応じて、上位6つの支店を販売良好グループ、下位5つの支店を販売不振グループに分けていた。ある年、販売良好グループには、180件、170件、160件、155件、150件、145件の物件を販売した支店が入った。販売不振グループには、販売件数が、140件、135件、130件、120件、110件にとどまった支店が入った。
両グループの販売成績を向上させるよう、社長に命じられた営業担当の役員は、妙案を思いついた。それは、販売良好グループと販売不振グループのグループ分けを見直してしまうことであった。
具体的には、145件の物件を販売した支店を、販売良好グループから販売不振グループに移してしまう。そうすることで、販売良好グループの平均販売件数が160件から163件に増えるとともに、販売不振グループの平均販売件数も127件から130件に増える。両グループとも成績が良くなっており、正に、一石二鳥の妙案である。
同様のマジックは、医療に関する統計でも生じかねない。例えば、悪性新生物では、腫瘍の大きさ、転移の程度などにより、I~IV4つのステージが設けられている。IからII、IIIと、進むに連れて、病状はより重くなる。そして、各ステージの患者の5年生存率によって、患者に施された治療法や薬剤などの成績が測定される。
例えば、ある病院で、ある患者が、2つのステージの境界線上にあったとする。この患者は下のステージに入れば、他の患者よりも相対的に容態が重い。しかし、上のステージに入れば、他の患者に比べて病状が軽いことになる。従って、この患者を上のステージと判定すると、下のステージと判定する場合に比べて、上下いずれのステージとも、見かけ上、生存率が上昇することになる。
このように、見かけ上の生存率が上昇する効果を、腫瘍学の専門用語で、「ステージ・マイグレーション(Stage Migration)」と呼ぶ。医療統計を作成する際は、このような効果の有無を把握するために、患者のステージ分布が変化していないかどうかを確認することが、必要とされている。
住宅販売会社の例のように、成績をよく見せようと、意図的にグループ分けを変えるというのは論外であろう。医療統計において、ステージ・マイグレーションが悩ましいのは、誰も意図しないままに、知らず知らずのうちに、このような効果が治療実績に入り込んでしまう点である。ある治療法や薬剤などの臨床試験を行う際には、この点に十分注意する必要があるだろう。
このように、成績自体を気にするばかりではなく、その成績がどのように評価されるのか、どのような意味を持つのか、を考えてみることも重要と思われるが、いかがだろうか。
(2015年11月02日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/28 | リスクアバースの原因-やり直しがきかないとリスクはとれない | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/04/22 | 審査の差の定量化-審査のブレはどれくらい? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/04/15 | 患者数:入院は減少、外来は増加-2023年の「患者調査」にコロナ禍の影響はどうあらわれたか? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2025/04/08 | センチネル効果の活用-監視されていると行動が改善する? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【成績は本当に良くなったの?-見かけの成績改善にはご用心】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
成績は本当に良くなったの?-見かけの成績改善にはご用心のレポート Topへ