コラム
2015年10月20日

「一億総活躍社会」への違和感 - 一人ひとりが自分らしく輝ける社会を!

土堤内 昭雄

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先日、第3次安倍内閣が発足した。スローガンは、「一億総活躍社会」だ。実現のための重点分野は、「強い経済」「子育て支援」「社会保障」で、具体的な数値目標として「国内総生産600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」を掲げている。少子高齢化に歯止めをかけ、50年後に1億人の人口規模を維持し、年齢・性別・障がいの有無などに関わらず、誰もが活躍できる社会を目指すことに特に異論はない。

しかし、「一億総活躍社会」という言葉には、どうしても違和感を覚える。「一億総活躍」というと、同じような生活水準で似通ったライフスタイルを享受していた高度経済成長期の「一億総中流社会」を思い出す。暮らし方や価値観が多様化した今日、国民が総じて同じ方向を目指す画一的な政策目標を連想させる言葉を“catchy slogan”にしたことが、どうも時代にそぐわないように思えてならない。

「一億総活躍」とはどういう意味だろう。安倍首相は記者会見で経済最優先の政権運営を表明した。最初に「2020年GDP600兆円達成」が掲げられると、全ての国民がこの目標に向かって頑張ることが「活躍」と思う人もいるだろう。出生率の向上や介護離職の解消も、個人が望むライフスタイルの実現というよりは、単なる経済成長のための手段ではないかといううがった見方もぬぐいきれない。

出産を望む人が希望を叶えられることは重要だが、経済最優先で「希望出生率を1.8へ」となると、一体誰の希望なのかと問いたくなる。介護離職についても、あえて離職してでも親や配偶者の介護をしたいと考える人もいるように、現代社会の個人のライフスタイルは多様だ。個人の生き方に密接に関わる数値目標を政府が一律に掲げることに、多くの国民は違和感を感じているのではないだろうか。

ワーク・ライフ・バランスの実現は、一人ひとりが幸せに暮らすためであり、社会保障制度の維持や労働力人口の確保が最優先目標ではない。誰もが希望するライフスタイルを選択できる社会が、結果として50年後に人口1億人を維持し、経済成長を実現するのかもしれない。現政権が経済発展に向けて期待するトリクルダウン効果が、いつの時代も社会をよりよくする唯一の万能薬ではないだろう。

人口減少が進み、一人暮らしが増加する現代社会では、地域の力や市民の力を活かすことが重要だ。財政健全化に向けて社会コストの低減を図り、どのようにして豊かな社会を創るのかが問われている。その実現には、従来の市場経済(Market Economy)だけでなく、子育て・介護・地域活動など共助社会をつくるGDPに換算されない社会経済(Social Economy)における多くの人たちの様々な活躍が必要だ。「一億総活躍社会」とは、経済分野に限らず「一人ひとりが自分らしく輝ける社会」でなければならない。

(2015年10月20日「研究員の眼」)

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土堤内 昭雄

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