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「朝型勤務」の“効用”とは何か-時間軸の“ズレ”がもたらす意識改革

土堤内 昭雄
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政府は今年の夏の国家公務員の始業時間を原則1~2時間早めるそうだ。朝型勤務を促進し、退庁時間を早めて残業を減らし、生産性の向上を図るためだという。経団連に対しては、会員企業・団体の朝型勤務導入を促す要請書を提出し、一部民間企業が実施する早朝勤務割増金への助成も検討する。しかし、国家公務員や企業従業員が、本当に朝型勤務により生産性を上げることができるのだろうか。
現代社会では、育児や介護などのために、様々な時間制約のある中で働く人も大勢いる。生産性を高めるためには、労使が共に「時間」という資源が有限であることを強く認識した上で、働き手が「時間」を最も効果的に使える柔軟な働き方を実現することが必要だ。朝型勤務には、直接的な生産性の向上だけではなく、もっと別の“効用”が考えられるのではないだろうか。
朝型勤務をすると、日常生活に時間の“ズレ”が生じる。私は以前、個人的にサマータイムを実施したことがある。2時間早く起きて、出勤前に自宅で一仕事し、明るいうちに退社する。映画を観る時は、通常の退社後の午後7時過ぎではなく、1回早い午後4時台に映画館に行く。同じ映画でも、客層が全く異なることに気づく。時間軸の“ズレ”が非日常的体験と新たな気づきを与えてくれた。
このように朝型勤務には、人々の意識・価値観を変えるという“効用”がある。働き方を変えるためには、新たな制度が整っても、利用者や社会全体の意識・価値観が従前のままでは、それは絵に描いた餅に過ぎない。500名以上のほぼ全ての大規模事業所では育児休業制度が設けられているにもかかわらず、実際に利用する男性従業員が2%にも満たないことからも明らかだろう。
人は自分の置かれた環境から社会全体を見がちだが、時間軸を少しずらすと現代の生活が立体的に見えてくる。午前中の映画館に行くと、高齢者でいっぱいだ。スポーツジムも早朝に行くと、開館前から多くの高齢者が集まっている。平日午前中のスーパーマーケットも多くの高齢者で賑わっている。高齢化が進むということは、これまでの仕事の時間と場所に制約されないライフスタイルの人が増え、その生活様式に対応する社会のあり方が求められることを意味する。
時間軸の“ズレ”が映す暮らしの諸相を体験・理解することは、多様なライフスタイルの社会を構想する重要なヒントになるだろう。朝型勤務には、国の政策立案に関わる国家公務員をはじめとした企業人材のダイバーシティを促進し、「霞が関」や企業の意識・価値観を見直す意識改革を引き起こすことを期待したい。それが、結果的に生産性の向上に繋がる可能性は高いのではないだろうか。
(2015年04月28日「研究員の眼」)
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