コラム
2015年04月15日

「認知症ライフサポート研修テキスト-認知症ケアの多職種協働実践ガイド」の出版に寄せて

山梨 恵子

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認知症ケア現場が抱えている本質的な課題とは何か。そのことを医療・介護の領域を超えてとことん話し合い、課題解決の一手として作られたのが「認知症ライフサポート研修」です。
   この度、ニッセイ基礎研究所では、本研修プログラムが作られた背景や目的、ダウンロード版テキストには書ききれなかった認知症ライフサポートの考え方や研修会運営ノウハウ、そして、本研修プログラムを活用して今後どのような認知症支援体制を目指していくべきか等についての詳細情報を一冊の本にまとめました。本稿では、この「認知症ライフサポート研修テキスト-認知症ケアの多職種協働実践ガイド(中央法規出版)」のPRを兼ねて、今後の認知症施策における「認知症ライフサポート研修」の意義について解説したいと思います。

認知症ライフサポート研修は、2011年から2013年までの3年間にわたり厚生労働省老人保健健康増進等事業により立ち上げられた研究事業の中で策定されました。「新たな認知症ケアモデルの開発」を目指していた検討委員会では、認知症ケアのパターン化を助長してしまうようなケアモデルを回避し、むしろ、多角的な視点で柔軟に、認知症の人の適時適切な支援を導きだすためのケアモデル、すなわち認知症ケアの多職種協働モデルをつくろうと考えたのです。
   とはいえ、認知症ライフサポート研修は、単に多職種連携・協働の大切さを訴えるだけの研修ではありません。認知症の人を支えていく上で最も大切にしなければならない、「認知症の人の自己決定を支える」「住み慣れた地域で継続性のある暮らしを支える」「自らの力を最大限に使って暮らすことを支える」といった認知症ケアの原則を多職種の共通ベースに据え、様ざまな専門職が同じ目標に向かって有機的に機能するチームづくりを目指しています。

認知症ケアの多職種協働は、これまでも課題視され続けてきたことですが、実践レベルではなかなか機能するに至らなかった現実があります。なぜ出来なかったのか。それはたぶん、医療の領域、介護の領域のそれぞれにおいて支援の方向性がバラバラだったことによるものと考えられます。目的や目標が異なるアプローチに、連携や協働が生まれないのはある意味当然です。認知症ライフサポート研修では、専門職ごとの役割や機能は違っていても、それぞれが目指していくべきは「本人が望む暮らしを支えること」ではないかということを参加者に問いかけ、オリジナルに作成した演習事例(75歳のハマ子さんと70歳のハマ子さん)を使って多職種協働の方向性を見出していきます。認知症の症状を抑えるための医療とか、認知症の人の世話をするための介護ではなく、「個別の人の思い」や「望む暮らし」に近づけていくことを多職種の目標に据えることで、連携すべきこと、協働すべきことは自ずと見えてくるはずです。

研修内容の形骸化を防ぐ意図もあり、研修プログラムは映像教材(DVD)にそって進めていくスタイルです。テキストと映像教材さえあれば、気軽に開催できるものとなっています。前述の「75歳のハマ子さん」の演習事例と「70歳のハマ子さん」の演習事例は、よくある事例を再現したオリジナルビデオですが、それぞれが捉えた視点をグループワークで出し合い、支援のあり方を話し合う中で、それまで気づかなかった他の専門職の考え方や役割・機能が見えてきたりもします。また、「手遅れ型の支援」から「備え型の支援」への転換は、この研修で伝えていきたい大切なメッセージの1つです。認知症が進んでしまった「75歳のハマ子さん」のビデオを視聴した後に、認知症が早期の頃の「70歳のハマ子さん」のビデオを視聴することで、認知症の人に早期に出会い、‘かかわる’‘つなげる’ということがいかに大切かということを体験的に学ぶことができるのではないでしょうか。
(※映像教材は、今回出版したテキストの付録としてご提供させていただきました。)

認知症ライフサポート研修は、旧オレンジプランの中で初めて紹介され、各地域での積極的な活用が推奨されました。その方針は新オレンジプランに引き継がれ、現在、新オレンジプラン7つの柱の2番目「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供」に位置づけられています。
[認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供の基本的な考え方]
   (1)本人主体の医療・介護の徹底
   (2)発症予防の推進
   (3)早期診断・早期対応のための体制整備
   (4)行動・心理症状(BPSD)や身体合併症への適切な対応
   (5)認知症の人の生活を支える介護の提供
   (6)人生の最終段階を支える医療・介護の連携
   (7)医療・介護等の有機的な連携の推進
   (出典)厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」

認知症ライフサポート研修は、上記(7)に関連する研修プログラムとして各地域での積極的な活用が期待されていますが、筆者は、(1)~(6)を実効性あるものにするためにも、まずは認知症ライフサポート研修等を活用し、「認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護」とは何かということについての多職種間の共通認識を図り、医療・介護が有機的に連携できる基盤づくりに取り組むことが重要ではないかと考えます。
   地域包括ケアシステムの構築が目指される中、認知症の人をいかに支えていくかは各自治体が猶予なく取り組んでいかなければならない課題です。認知症ケアにおける課題を洗い出し、支援の方向性を明らかにした本書は、認知症ケアに携わる様々な専門職のベクトルを一致させ、認知症支援体制を強固なものにしていくツールとして有効にご活用いただけるものと信じています。

※ 認知症ライフサポート研修テキストの購入はこちらから
      http://www.chuohoki.co.jp/products/welfare/5144/

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山梨 恵子

研究・専門分野

(2015年04月15日「研究員の眼」)

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