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- 本人本位の認知症ケアから本人本位の認知症施策へ
昨年12月にロンドンで開催された「G8認知症サミット」に続き、11月5日~6日、「認知症サミット日本後継イベント」が都内で開催された。主要7カ国を中心に集まった研究機関専門家や政府関係者等は、「新しいケアと予防のモデル」をテーマに各国の取組みを報告し、今後の認知症施策の在り方について議論した。「認知症になっても住み慣れた地域で安心して暮らせること」は、各国共通の取組み課題である。
冒頭、安倍首相による挨拶では、「我が国の認知症施策を加速するための新たな戦略を策定する」ことが明言され、現在進められているオレンジプラン(平成25年度から29年度までの認知症施策推進5か年計画)を新たにした国家戦略が打ち出される見通しとなった。早期診断・早期対応と切れ目の無いサービス提供、生活環境の整理や認知症の人にやさしいまちづくり、本人・家族の視点にたった施策の推進など、その基本方針はこれまでの流れに沿うものと思われる。しかし、従来と異なるのは、認知症施策が省庁の枠を超えた国家戦略に位置づけられた点であり、様々な認知症施策が一気に進んでいくことへの期待感も高まる。
このイベントでもう1つ注目されるのは、認知症の人自身が登壇し、認知症となった本人が望む認知症施策の必要性を訴えたことである。施策を議論する場への当事者の参加はある意味当然のことかもしれない。しかし、従来参画してきた当事者とは「介護する家族」であることが多く、施策の視点は自ずと介護負担の軽減や認知症の症状への対応に向けられてしまいがちな面がある。心身ともに過剰な介護負担がかかることの多い家族と、実際に認知症を患う本人とでは、抱えている悩みも、求めている支援も異なる部分が多いのは当然で、本人が望む支援を本人の言葉を通して社会に問いかけていくプロセスは、認知症の課題の本質を明らかにする上でも重要なアプローチになると考えられる。
いまだに払拭しきれない認知症への偏見を無くし、認知症になっても社会と関わりを持ちながら生活できるようにすること。診断後の不安な時期に寄り添い、様々に起きてくる生活課題対応する支援体制を整えること。これら「認知症の人が希望を持ってよりよく生きること」を支えていくための支援は、認知症の人の体験に基づいた本人視点の課題分析が不可欠だ。そのプロセスを怠れば、形ばかりの意味をなさない支援にもなりかねない。また、こうした取組みこそが過剰な、あるいは不必要な介護サービスの利用を回避し、コストの削減や本人の望む暮らしに近づいてく方法になるとも考えられる。
認知症の人(本人)の声に耳を傾け、当事者性に基づく政策立案につなげていくといった試みは、既に国際的な潮流になっている。2009年に公表されたイングランド認知症国家戦略では、本人の視点を反映した包括的な政策方針が打ち出され、その評価指標として本人視点の成果項目が設定されている。また、今年9月20日にNHKで放映されたETV特集「私たち抜きに私たちのことを決めないで ~初期認知症と生きる~」では、イギリス北部のスコットランドで認知症の人同士が集う「認知症ワーキンググループ」が結成され、スコットランド政府の認知症施策に大きな影響を及ぼしている様子が紹介された。「診断後サポート1年保証1」と呼ばれる認知症の早期支援制度は、認知症ワーキンググループの声を反映させた認知症政策の1つだという。
認知症の人自らが活動する場を持ち、情報発信や政策提言に関っていこうとする動きは日本においても始まっている。今年10月11日、日本認知症ワーキンググループは、「認知症になってから希望と尊厳をもって暮らし続けることができ、よりよく生きていける社会を創りだしていくこと」を目的に発足した。ワーキンググループは今後、国内外の認知症当事者とつながりながら、多くの認知症の本人の声を代弁しつつ、政策・施策への提案や認知症に対する社会の認識を変えていく(偏見・差別の解消)ための活動を展開する。
「人生を楽しめれば、人として充実した生活を実現できる。そのための支援・制度でなくてはならないと思う。認知症であるなしに関わらず、生きる喜びがあります。人生の最終章をハッピーエンドで迎えるために、どうしたらいいかを皆で考えていきましょう。」
これは、昨年度の研究事業2の中でご協力いただいた認知症の人へのインタビューの一節である。認知症のあるなしに関らず、その後の人生を自分らしく、より良く暮らしていきたいという願いは誰もが同じに持っている。認知症あるいはその予備群が高齢者の4人に1人という時代。求められるのは、私たちの中にある認知症へのスティグマを克服することであり、個別のニーズに対応する支援さえあれば、認知症になっても地域の中で生き生きと暮らし続けることが出来るという、ポジティブなイメージを持てるようにすることではないか。
(2014年11月14日「研究員の眼」)
山梨 恵子
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