コラム
2015年03月31日

地方税ではない“地方法人税”が持つ意味-地方財政計画の読み方 その3

石川 達哉

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1.地方法人税の特殊性と創設の経緯

2015年度の税収見込額が4,770億円の「地方法人税」は、総額規模が85兆2,710億円の地方財政計画において、大きな第一歩を踏み出したように思われる。2014 年10月から課税の始まった「地方法人税」における徴収額の全額が交付団体(地方交付税の交付を受ける道府県、市町村)のみに還元される仕組みは、他の国税、地方税にはないものである。国税のうち、所得税、法人税、消費税、酒税に関しては、一定割合が交付税の原資に充当され、充当された額の全額が交付団体の財源となるが、残りの部分は国の財政活動の中で地域を限定することなく使われるものである。また、地方税であれば、基本的には、税が発生した地域、徴収した地域の地方公共団体の財政活動で使われる。しかし、「地方法人税」は全地域から徴税されるが、財源として使うことのできるのは、交付団体のみである。

この「地方法人税」の特徴を列挙すれば、次のとおりである。第1に、呼称に反して、形式的には国税であること。第2に、課税ベースは法人所得であること。第3に、全額が地方の財源として、国の一般会計を経由せずに交付税特会に直接繰入れられ、交付税原資となること。第4に、税の徴収とその後の交付によって地域間の財源偏在(以下、「格差」という)を縮小させる効果が大きいこと。第5に、対となる地方譲与税は創設されていないため、東京都のような不交付団体に対しては、還元が全くないこと。第6に、交付団体であれば、都道府県と市町村のいずれにも恩恵が及ぶことである。

実は、「交付」という言葉を「譲与」という言葉に置き換えれば、4番目までの特徴は、「地方法人特別税」にも当てはまる。しかし、第5の性質が加わることで、「地方法人税」は「地方法人特別税・地方法人特別譲与税」と比べても、大きな格差縮小効果を持っている。「地方法人特別税」の場合、国庫に納付された総額が人口と従業者数をもとに按分され、「地方法人特別譲与税」として各都道府県に譲与される。こうした仕組みでも格差は十分に縮小するが、東京都にも「地方法人特別譲与税」の割当がなされるため、交付団体のみに資金が流れる「地方法人税」ほどの効果を持つことはできない。

逆に言えば、「地方法人税」は、「地方法人特別税・地方法人特別譲与税」を上回る格差縮小効果を持つように設計されたと考えられる。もともと、「地方法人特別税」は抜本的地方税改革が行われるまでの暫定措置として法人事業税を一部振り替える形で導入されたものであり、消費税率引き上げを前に暫定措置収束も含めた地方法人課税全般を見直す議論がなされ、結果的に導入されたのが「地方法人税」である。当然、消費税率と地方消費税率の引き上げだけでは税制の抜本改革とはみなせないという意見や、「地方法人特別税・地方法人特別譲与税」を収束させるのは抜本改革時の方が好ましいという意見はあった。結局、抜本改革に向けた議論が継続された一方で、法人実効税率を不変に保ちつつも、法人所得を課税ベースとする税目の再編を伴う形で、「地方法人税」が創設された。その税率は、法人道府県民税と法人市町村民税の税率引き下げ分に一致するよう設定されており、地域間の財源偏在を縮小させる効果が広く深く及ぶように設計されたのが、「地方法人税」だと理解することができる。

2.「出口ベースの地方交付税」に対する地方法人税の効果

最初に「第一歩を踏み出した」と表現したのは、1年間を通じた「地方法人税」の課税が行われるのは、2015年度が最初だからであり、地方財政計画上の地方交付税にその効果を見られるからである。

一般に、国の一般会計から交付税特会へ繰入れられる際の地方交付税は「入口ベースの地方交付税」と呼ばれる。一方、交付税特会における増減を経て、地方公共団体への交付資金として歳出される額は「出口ベースの地方交付税」と呼ばれ、地方財政計画上の金額はこれに対応する。2015年度の場合、「入口ベースの地方交付税」は15兆4,169億円と前年度から6,064億円減少したが、「出口ベースの地方交付税」は16 兆7,548 億円と、前年度からの減少額は1,307 億円にとどまっている。

交付税特会内で増額をはかる場合には、これまでは、借入金の償還繰り延べ、剰余金の活用など特殊な会計処理や会計間取引が行われてきた。しかし、2015年度に関しては、地方公共団体金融機構準備金を除けば、特殊な方法によることなく、「出口ベース」での減少額を「入口ベース」での減少額よりも4,740億円も少ない額に抑えることができている。

その主因は、前年度から4,767億円増加した「地方法人税」である。大きな金額ではないが、「出口ベースの地方交付税」の透明性を高めるという意味では、確実に足跡を残したものと言えるであろう。

3.地方法人税への疑問点

しかし、この「地方法人税」にも、疑問点がないわけではない。

第1に、そもそも地方固有の財源を法人所得から発生する税に求めることが適切かどうかである。法人実効税率引き下げの議論がある中で、既存の税を組み替えてまで、この税を導入することの理由は何だったのであろうか。消費税率引き上げと同時に実施すべきことだったのであろうか。

第2に、この税は交付団体のためだけに不交付団体中心に徴収する意味合いが強く、交付税制度のあり方を激変させる可能性があることについて、議論を十分尽くしたのであろうか。また、景気の影響を受けやすい税目が原資に加わることで、交付税財源が不安定化する側面はどう考えるべきなのか。

第3は、東京都に法人関連税収が偏在するとしても、東京都固有の財政需要をどのように評価するのかという点である。また、格差をどの程度まで縮小させるべきか、十分検討を行ったのであろうか。

第4は、結局、「地方法人税」が、どれくらい国民に知られているのかという点である。

導入時の議論や周知の仕方が十分なものであったにせよ、なかったにせよ、「地方法人税」は、他にはない特徴と大きな重みを持った税である。すでに導入された後ではあるが、今後の税制改革や地方交付税制度改革に向けた議論において、上記の論点とは再度向き合うことが必要ではないだろうか。
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石川 達哉

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(2015年03月31日「研究員の眼」)

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