2015年03月06日

年金に代えて給与を払う社会

櫨(はじ) 浩一

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1――奇妙な夢

朝見る夢は正夢になると言われることがある。さて、筆者の見た朝夢は何とも奇妙なものだったが、正夢なのだろうか? 高齢者には年金が支給されなくなり、代わりに全員に仕事が用意されることになった。人々は皆文句を言いながらも、それぞれ指定された職場に行って仕事をもらった。特段の専門的技術がない筆者には適当な仕事がなくて困っていると、担当者がやってきて良い仕事が見つかったと言う。
   喜んで職場に行くとどう見ても100歳は超えているだろうという上司がやってきて、仕事は「高齢者はどんな仕事をすれば良いのか」という報告書を作ることで、上司がそれを読んで良いアイデアかどうか評価すると言った。
   そんな仕事に給料を払ったのでは政府の財政が大変だろうというと、「高齢者にも生活費を払わなくてはならないのだから、年金を支払うよりも給料を払って何かやってもらう方が政府もありがたいのだ」と言う。確かにその通りだし、働かなくてはならないと文句を言っていた人達もどこか生き生きしているような気がする。困惑している筆者を見て、上司が大笑いしたところで目が覚めた。


2――働く高齢者

公的年金の支給開始年齢は65歳に引き上げられつつあるが、高齢化がさらに進む中ではもっと引き上げる必要があるという議論がおこなわれている。ここで障害となるのは、年金をもらうまでの間、高齢者がどうやって所得を得て生活を賄うのかという問題だ。
   これまでの対応は、定年年齢の引き上げなど企業の対応を求めるものが多かった。65歳までの就業確保が企業に義務づけられたことで60~64歳までの男子の就業率は2002年の64%を底に2013年には72.2%に上昇している。
   働く世代の定義は15~64歳までの年齢層だが、実は引退して働かないと考えられている65歳以上の年齢層でも意外に多くの人が働いている。65~69歳の年齢層でも男性の就業率は長期的な低下傾向を辿っていたが、低下傾向は2005年頃に止まり、反転して上昇する気配も見られる。2013年の就業率は48.8%で、この年齢層の男性のほぼ半数が仕事を持っている[図表1]。
   日本では昔は農業や自営業の比率が高かったので、かなりの年齢になるまで多くの人が働いていた。1970年頃には65~69歳の年齢層でも約三分の二の人が働いていた。日本の就業者数は、2013年には6311万人だったが、この中で65歳以上の人は636万人もおり、全体の1割以上を占めている。日本では元気な間は働きたいという人が多いが、実際に65歳を超えてもかなりの人が働くことができているのだというのは筆者には驚きで、この数字を見て少し安心もした。




3――人手不足と高齢者の就業

これまでは若年の失業問題が深刻だったので、高齢者の就業を促進する話はなかなか大胆な方策を打ち出すことができなかった。しかし少子高齢化が進む中で、状況は大きく変わっている。2012年4月から11月まで景気は後退局面にあったが、この間に失業率の上昇や有効求人倍率の低下という雇用情勢の悪化は起こっていない。むしろ人手不足があちこちで問題となるようになっており、高齢者の就業を促進する思い切った政策を打ち出しやすい環境がついにやってきた。
   年金だけが高齢者の所得を維持する方法だと考えると、原理的に現役世代の負担増を招かずには解決策が無い。しかし、どうやって働いてもらうかということなら、色々な手段があるはずだ。企業に高齢者の活用を義務付けるだけでなく、今後人手不足が懸念される公的なサービスの担い手として働いてもらうなど、政府にもできることがありそうだ。
   年金を払う代わりに健康な高齢者には働いてもらって給料を払うという筆者の夢が正夢になると良いのだが。

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