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将来予測は最初が肝心-蝶の羽ばたきは竜巻を起こすか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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自然現象でも経済の事象でも、現在の状態を踏まえた上で今後の姿を予測するという研究や議論はよく行われている。生命保険で、保険料の算定やリスク管理をする場合も、将来の予測は極めて大切である。例えば、過去の金利の変動を踏まえつつ、国内外の金融市場の状況、日本銀行の金融政策、金融機関等の経営施策などを考慮して将来の金利予測をする。同様に、死亡率や、病気やケガの発生率についても、過去に保険会社が経験した保険給付の発生状況や政府から発表される国民全体の統計データ等をベースに、発生動向のトレンドなどを加味して将来の予測をする。
さて、将来の予測をする場合に、いくつかの方法が考えられる。例えば、最も単純なものとして、将来も現在と同じ状況がそのまま継続するとの前提を置く方法がある。これとは別に、あるモデルや計算式を設定して、それをもとに将来の予測を行うという方法もある。モデルや計算式の設定の仕方には様々な方法が考えられるが、どれが良い方法かを決めるのは難しい。過去実績の再現の精度、予測にかかる計算の負荷等、いろいろな点を検討する必要がある。
将来予測をする上で、必ず踏まえておくべきポイントがある。それは初期条件の重要性だ。初期条件が少し異なると予測結果が劇的に変わることがしばしばある。例えば、次のような計算を考えてみよう。
2つの数値5と7の足し算をする際に、7を誤って8として計算したとする。すると、正しい答え12に対して13という誤った答えを出すことになる。もちろんこれは誤りだが、結果は1違っただけで、誤りの程度は限定的と言える。
しかし、2つの値で累乗の計算をする場合はどうだろうか。5の7乗と計算すべきところを5の8乗の計算をしてしまったとすると、正しい答え78,125に対して、390,625という誤った答えを出してしまうことなる。これは大きな誤りである。
足し算のような計算であれば、初期値が異なったとしても、異なった程度にしか予測結果は変わらない。しかし、累乗のような計算になると、初期値の違いが予測結果の劇的な変化につながりかねない。数学では、足し算のような関係を線形、累乗計算のような関係を非線形と呼ぶ。実は、世の中で起こる事象の大半は、非線形の関係と言われている。それも複数の変動要素(変数)が、累乗や、そのまた累乗といった、とても複雑な非線形の関係を持っていると考えられている。
このような現象は、カオス理論という学問分野で研究されている。カオス理論には、「バタフライ効果」と呼ばれる有名な用語がある。これは、天候などの自然現象の研究をした際の、「ブラジルでの、ある1匹の蝶の羽ばたきが、アメリカのテキサス州での竜巻の発生につながる」という話である。
即ち、天候の予測のような複雑な計算においては、初期条件のわずかな違いが、結果に大きな違いをもたらすことを述べており、このため、確実性の高い予測は困難だということを表している。1960年頃、エドワード・ローレンツという気象学者が計算機を用いて将来の天候予測をしていたところ、入力するデータの端数処理を少し変えただけで全く異なる予測結果につながることを発見した。この用語は、彼がこのことを学会で発表する際に、その講演のタイトルに用いたことに由来している。
複雑な計算モデルを駆使しながら将来の予測をする際には、このバタフライ効果について理解しておくことが必要であろう。予測の担当者は、初期条件を少し変えると計算結果がどれほど変化するのかということを検証して、結果とともに表示することが望ましいと考えられる。
一方、予測内容を確認する立場では、初期条件を読み飛ばして、結果にばかり目が行きがちである。初期条件の変化がどのくらい結果に影響を及ぼすのかを、落ち着いて確認していくことも重要と思われるが、いかがだろうか。
(2014年11月17日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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