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- 企業の不動産管理におけるアウトソーシング活用のすすめ-遅れている不動産管理ではCRE戦略の取り組み準備から
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日々グローバル競争が激化する現在、企業は、強みを発揮すべきコア業務に経営資源を集中することが求められており、そのためには、コア業務以外については、アウトソーシングなどにより、外部資源を活用する必要がある。
アウトソーシングを戦略的に活用する考え方は、本業に関わるバリューチェーンの各段階の業務(企画開発、調達・購買、製造、販売・マーケティング等)にとどまらず、経理・財務、人事、IT、物流、不動産など、社内で専門的・共通的役務(シェアードサービス)を提供する本社管理業務についても適用すべきだ。
本社管理業務の中では、ITや物流などの業務においてアウトソーシングが進展している一方、不動産管理業務ではアウトソーシングの活用が遅れている1。不動産を重要な経営資源に位置付け、その活用、管理、取引に際し、企業の社会的責任(CSR)を踏まえた上で、企業価値最大化の視点から最適な選択を行う経営戦略を CRE(Corporate Real Estate)戦略と呼ぶ2。産官学の多様な組織によって、CRE戦略の普及啓発が図られてきた結果、CRE戦略という言葉は産業界に広まりつつあるが、適切なマネジメント体制の下で組織的にCRE 戦略に取り組む企業はまだ少ない。日本企業は元々自前主義に陥りがちであり、未だCRE戦略に取り組む企業も少ないため、不動産管理業務でアウトソーシングを戦略的に活用するとの発想がなかなか拡がらないと考えられる。
海外の先進的なグローバル企業では、戦略的に不動産管理に取り組む中で、アウトソーシングを効果的に活用するケースが極めて多い。IBM、インテル、オラクル、グーグル、ヒューレット・パッカード、プロクター・アンド・ギャンブル、マイクロソフトなど、CRE戦略の海外先進事例には3つの共通点が見られ、筆者はこれらをCRE戦略実践のための「三種の神器」と呼んでいる3。1点目は、CRE戦略を担う専門部署の設置とIT活用による不動産情報の一元管理により、CREマネジメントの一元化を図っていることである。2点目は、CRE戦略の重点を不動産管理にとどまらず、先進的なワークプレイスやワークスタイルを活用した人的資源管理(HRM:Human Resource Management)に移行させていることである。そして3点目が、外部の不動産サービスベンダーを効果的に活用することにより、戦略的業務への社内の人的資源の集中を進めていることだ。施設運営など日々のサービス提供業務は、外部ベンダーに包括的に委託する一方、CRE専門部署では社内スタッフの少数精鋭化を進め、戦略の策定・意思決定やベンダーマネジメントに特化する傾向を強めている。社内スタッフと外部ベンダーが異なる組織にいながら実質的には一つのチームを形成し、社内スタッフはこのチームをフル活用することで、戦略的業務に注力することができるのである。
海外先進事例の中でも、マイクロソフトは、極めてチャレンジングなアウトソーシングモデルに取り組んでいる。それは「インテグレーターモデル(Integrator Model)」と呼ばれる、外部ベンダーとの新しいパートナーシップモデルの導入だ4。このモデルでは、元来1アウトソーサーであった企業(米CBREグループ)に、取りまとめ役(インテグレーター)として社内のCRE部門5と一体の存在となってもらい、知見やネットワークをフルに発揮してもらうのだという。さらに、ビジネスシーンでは競合関係にあるインテグレーターと他のベンダーの間でも、マイクロソフトの目指す目標を共通のゴールとすることで、パートナー関係を構築してもらうのだという。マイクロソフト、インテグレーター、他のベンダーの間には、会社対会社という概念はなく、イメージするのは一つの組織体、運命共同体であるという。まさに究極のアウトソーシングモデルと言えよう。
各々の役割としては、CRE部門の役割は、より戦略的に社内顧客(経営層、事業部門、従業員等)と密接に連携し、ビジネス戦略に即したオフィス戦略を立て、それを実行に移すことであり、インテグレーターの役割は、サービスを提供するベンダーの管理監督、不動産のポートフォリオマネジメント、ソリューションプランの提示をCRE部門と連携しながら推進していくことであるという。
多くの日本企業では、いきなり最先端のマイクロソフトのインテグレーターモデルを導入することは、当然のことながら難しい。まずは、戦略的に不動産管理業務に取り組むための準備を早急に行うべきだ。すなわち、前述の「三種の神器」を整備することが不可欠であり、まず真っ先にCREマネジメントの一元化を図るとともに、創造的なワークプレイスを重視する考え方に改めることが求められる。このような準備を行った上で、企業がCRE戦略を実践し進化させていくためにはアウトソーシングの活用が戦略的に欠かせないということをしっかりと認識しなければならない。
<参考>筆者が執筆したCRE戦略に関わる主要な論考
- 「企業の土地投資行動の裏にあるもの」『ニッセイ基礎研REPORT』2005年9月号
- 「真のクラスター創生に向けて」『ニッセイ基礎研所報』2005年Vol.38
- 「企業不動産(CRE)戦略と企業経営」『ニッセイ基礎研REPORT』2006年8月号
- 「CRE(企業不動産)戦略の進化に向けたアウトソーシングの戦略的活用」『ニッセイ基礎研REPORT』2010年8月号
- 「イノベーション促進のためのオフィス戦略」『ニッセイ基礎研REPORT』2011年8月号
- 「CRE戦略の企業経営における位置付けと役割」『ニッセイ基礎研所報』2014年Vol.58
- 「顕著な政策効果を発揮するアベノミクスの設備投資減税政策~『生産性向上設備投資促進税制』の考察」『基礎研レポート』2014年8月7日
- 『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』東洋経済新報社2006年(共著)
- 『企業不動産戦略─金融危機と株主市場主義を超えて』麗澤大学出版会2009年(共著)
- 国土交通省 合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会)『CRE戦略実践のためのガイドライン(2010改訂版)』2010年6月14日(※筆者が「事例編」の作成を担当)
- 国土交通省 合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会)編著『CRE戦略実践のために─2010改訂版─』住宅新報社、2010年10月(※筆者が「第3章 事例編」の作成を担当)
(2014年10月23日「研究員の眼」)
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社会研究部 上席研究員
百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)
研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営
03-3512-1797
- 【職歴】
1985年 株式会社野村総合研究所入社
1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
2001年 社会研究部門
2013年7月より現職
・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)
【受賞】
・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
(1994年発表)
・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)
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