- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- 消費者行動 >
- 「顧客との価値共創」は可能か?
近年、マーケティングにおいては、「これからの企業の成長には顧客との価値共創が不可欠である」といった意見がみられるようになってきた。こうした意見がでてくる背景には、以下に示すような、大きく2つの要因があるものと思われる。
- コモディティ化の進展や、消費者の価値観が多様化する中で、ニーズを捉えた独自性の高い商品・サービスの開発が困難となってきたこと
- FacebookやLINEなど、SNSの普及により、消費者と直接コミュニケーションをとる環境が整ってきたこと
いずれも理由としてはもっともであり、既に多くの企業がSNSの活用に取り組み、実際に成功事例として挙げられる企業も僅かながらでてきているようにみうけられる1。
顧客との価値共創、すなわち、消費者個々とのコミュニケーションの中で、直接ニーズを語ってもらったり、マーケターがニーズを汲み取っていくことで、商品やサービスをカタチ作っていくことができれば、企業にとっては、「(少なくとも)その消費者や類似の嗜好をもつ消費者群による商品・サービスの購入」、すなわち最低限の売上(収益)が見込める上、口コミやSNSなどを通じて消費者自らの体験として発信してもらうことで、支持を広げていくことも期待できよう。苛烈な競争の中にある企業にとって、このような成果が期待される取組は、甘美に響くのではないだろうか。
しかし実際に、企業が顧客との価値共創に取り組んでいくためには、以下に述べるように2つの大きな壁を越える必要がある。
第1は、企業における“スキルの壁”である。商品・サービスについて、実際に使うなかで不便を感じる点があれば、その点について語ることは、一介の消費者であっても容易であろう。しかしこれでは、既存の商品・サービスの改良はできたとしても、市場に存在しない新商品・サービスを生み出すことにはつながるまい。また、自身のニーズや、ニーズの背景となるような生活上の不便や課題について、消費者自身が自覚し、明確に言葉や態度として示せるとは限らず、企業側には、コミュニケーションを通じて彼ら彼女らの言葉や振る舞いからニーズを汲み取る、高度なスキルが求められよう。こうしたスキルは一朝一夕に獲得できるものではなく、顧客との距離が遠く、コミュニケーション経験の蓄積が乏しい企業にとっては、より大きな壁となるのではないだろうか。
第2の壁は、“参加の壁”である。企業側が「顧客との価値共創」を望んだとしても、その商品・サービスを利用している消費者が必ずしも協力的であるとはいえまい。コモディティ化が進む中、多くの商品・サービスには、代替する商品・サービスが無数にあり、何か不便を感じたり、不満を抱いた顧客は声を上げることなく容易に離反してしまうのではないだろうか。企業の価値創造に協力を惜しまない消費者とは、すなわち当該企業やブランドに対して思い入れがあるファンである可能性が高い。果たして、どれだけの企業がこのような熱心なファンを獲得できているだろうか。
これらの壁は、いずれも消費者とのコミュニケーションを積み重ねていく中でのみ、越えていけるものであるように思われる。「顧客との価値共創」による甘美な果実は、顧客と真摯に向き合い、誠実にコミュニケーションを重ねてきた企業にのみもたらされる。厳しい競争環境のなかで、短期的には成果につながりにくい取組を続けていくことは、茨の道にも感じられよう。それでも果実を得たければ、まずなすべきは、顧客とのコミュニケーションを通じて、自社や自社の商品・サービスのファンを増やしていくための、地道な取組ではないだろうか。
このほか、クックパッドやアットコスメなど、各種のユーザ投稿サイトの運営企業においては、消費者からの投稿そのものが価値創造の源泉であるといえよう。
(2014年10月09日「研究員の眼」)
井上 智紀
研究・専門分野
井上 智紀のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/03/07 | 4つの志向で読み解く消費行動-若者は「所有より利用」志向、女性やシニアは「慎重消費」志向 | 井上 智紀 | 基礎研マンスリー |
2024/01/19 | 4つの志向で読み解く消費行動(1)-若者は「所有より利用」志向、女性やシニアは「慎重消費」志向 | 井上 智紀 | 基礎研レポート |
2023/04/27 | 投資経験の拡がりと今後の意向-経験者は増えるものの課題はリテラシーの向上 | 井上 智紀 | 基礎研レポート |
2023/04/27 | 「第12回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」 調査結果概要 | 井上 智紀 | その他レポート |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年10月03日
暑さ指数(WBGT)と熱中症による搬送者数の関係 -
2024年10月03日
公的年金の制度見直しは一日にしてならず -
2024年10月03日
市場参加者の国債保有余力に関する論点 -
2024年10月03日
先行き不透明感が晴れない中国経済 -
2024年10月03日
市場構造の見直しと企業価値向上施策による株式市場の活性化
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【「顧客との価値共創」は可能か?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「顧客との価値共創」は可能か?のレポート Topへ