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1――もたつく回復
4月からの消費税率引き上げで経済活動は落ち込むものの、夏場には急速に持ち直すと見られていた。しかし、7月の鉱工業生産指数は前月比0.4%の上昇に留まり、8月は1.5%の低下となった。経済は急回復という予想を下回り、もたついている。ウクライナや中東情勢の緊迫といった海外要因や、国内の天候不順などがあったことも加わって、増税後の回復は元々慎重な見方をしていた我々の見方をも下回る。
政府は、2015年10月から10%に引き上げるかどうかの判断を、7-9月期の経済成長率の発表を待って12月に行うことにしている。消費税増税の影響の議論には誤解がみられ、昨年夏に8%への引き上げについて駆け込み・反動減にさえ対処すれば経済へのマイナスがないかのような楽観論があった。楽観的過ぎる予想が現実との乖離を拡大させて、政策判断を難しくした。
2――曖昧な反動減という言葉
消費増税前には安い間に買っておこうという駆け込み需要が発生し、増税後は駆け込みで購入された分だけものが売れなくなるという反動減が起こる(図の三角形の部分)。これが非常に大きいので目を奪われがちだが、増税分だけ販売価格が上がっているので同じ1万円で買える商品の量が減るという効果がある。駆け込みと反動減が無くても、経済成長には増税時に道路の段差のような一時的な落ち込みはどうしても起きてしまう。
増税の反動減で売り上げが減少したという説明が良くみられるが、駆け込みの反動減と増税による直接の影響が混同されている。駆け込みの反動減は時間が経てば無くなるが、増税によって値上がりした効果は消滅しない。消費が元に戻るためには所得が増える必要がある。
駆け込みの反動減と増税の直接効果を混同した議論が、少し時間が経てば何もしなくても経済が元に戻るかのような楽観論を生んだ。駆け込み需要の影響は時間とともに薄れるものの、増税そのものの影響は残ることをもっと明確にしておくことが必要だった(注)。
3――中福祉・中負担の具体的水準
消費増税は短期的には景気にマイナスだからといって、いつまでも先送りすることは、財政破綻のリスクを次第に高めて行ってしまう。2010年に23%だった日本の高齢化率(65歳以上人口が総人口に占める割合)は、2060年には39.9%にも達する。このため現在の制度のままでは年金や医療・介護の支出は自動的に増えてしまう。増税だけで対応しようとすれば著しく高い税負担になってしまい、一方増税を避けて支出を削減することで対処しようとすれば、今の保障を大幅に縮小して給付を著しく削減することが必要になるのは確実だ。大幅な財政赤字を抱えた現状から出発すると、日本に残された道は今から、少しずつ増税し続ける一方で歳出も抑制するということを続けるしかない。
負担増と給付削減の組み合わせのバランスをどうするかは大きな問題だ。高福祉・高負担でも低福祉・低負担でもない、中福祉・中負担を目指すとはいっても、両極端の間のどのあたりに目標を定めるかをはっきりさせる必要がある。
増税や保険料引き上げの議論と、予算で社会保障費の膨張を抑制する議論とは別々に行われることが多いため、負担の増加にも社会保障費の抑制にも反対するという矛盾した判断がまかり通ってしまう。こうしたことを避けるためにも、政府は増税や社会保険料といった負担のレベルと、それに対応して提供できるサービスの組み合わせを国民に提示して、選択を求めるべきだ。
(注)消費税税率引き上げが経済成長率に与える影響については、Weeklyエコノミストレター2013年11月15日号を参照
(2014年09月30日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
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