コラム
2014年07月22日

保険は効用を感じてこそ-家電製品の保証期間の延長はどう判断すべきか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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ボーナス時期の夏と冬には、高額な商品の販売が進むという。最近は、デジタル家電を中心に、ボーナスで家電製品を買う人が増えているとの話も耳にする。家電製品を買うときに、よく選択を迫られるのが、保証期間の延長である。例えば、家電製品の販売店で製品を買うときに、レジの店員からこんなことを聞かれる。

「この製品にはメーカーの1年保証が付いています。通常の方法でご使用されていた場合、ご購入から1年以内の故障であれば、製品を無償で修理または交換させていただく、という保証です。当店では、この保証期間を5年に延長するサービスを有償で取り扱っています。○○円の延長保証料をお支払いいただければ、保証期間の延長ができますが、いかが致しますか?」

   突然、保証期間延長について聞かれて、しかもすぐに判断が求められる。しかしながら、
 ・まだ使ってもいない製品でどれぐらい故障しやすいものなのか、がわからない。
 ・その製品が故障するとどれぐらい困ることになるのか、もわからない。
 ・故障時に修理に出した場合、どのくらいの修理費用がかかるものなのか、も見当がつかない。
 ・製品のサイクルが短い場合、故障時に修理に出すべきなのか、それともいっそのこと、新品に買い換えてしまうべきなのか、も購入時点では決めきれない。
このように、わからないことが多く、かなり難しい判断となる。

一般に、販売店と損保会社の間では、瑕疵(かし)保証責任保険という損害保険が取り交わされている。保証期間延長サービスの利用者が支払う延長保証料は、この保険の保険料に充てられる。保険料は、「低すぎず、高すぎず、不当に差別的でないこと」という原則に基づいて設定されている。従って、損保会社は故障の発生確率や、故障が発生した場合の故障の程度を想定し、これをもとに適切に保険料を設定している。

しかし、製品の1ユーザーに過ぎない購入者が、その製品の故障の発生確率や、故障の程度について知る由もなく、保険料と補償の金額面での関係は具体的にはわからない。結局、保証期間の延長をするかどうかは、直感に頼って判断するしかない。それでは、どうすれば少しでも納得のいく判断が下せるのだろうか。

ここで、行動経済学で行われた、ある実験を紹介しよう。

行動経済学の実験

平均的に支払う金額は、(1)も(2)も500円で同じである。実験の結果では、このような場合、単純に2つの選択肢を提示すると、(2)を選択する人が多いとのことである。(2)を選ぶ人は、確率0.1%の不運など、めったに起こらないし、それが自分の身に降りかかることなどまずない、と楽観的に考えるのだろう。

しかし、選択に際して、「(2)の50万円を支払わなくてはならないとなったら大きな負担となる。 (1)の500円のお金はこれを回避するための保険料として、安心を得るための支払いなのだ。」という保険としての説明を丁寧に行うと、(1)を選択する人が多くなるとの結果が出ている。これは行動経済学で、「保険文脈」と言われているものだ。人は、大切なものを保険によって守るという説明を十分に理解すると、安心感という効用を感じることができ、保険に加入しやすくなるということである。

家電製品の保証期間延長の場合においても、よく店員の説明を聞き、わからない点は質問をして解消していけば、納得して判断ができるのではないだろうか。また、保証期間を延長しないと判断した場合でも、その判断に自信を深めることができるのではないだろうか。

これは、何も家電製品の保証期間延長の話だけではない。生命保険にせよ、損害保険にせよ、保険に加入する際には、時間をかけて募集人等の説明を聞いて、保障・補償の内容、保険料の負担、関連サービスの仕組みなどを十分に理解することが、大切であると思うが、いかがであろうか。

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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