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「国民幸福基金」施行1年の成果と課題―必要とする皆が利用できる制度の構築を目指せ!―
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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はじめに
韓国で国民幸福基金が発足してから1年が過ぎた。国民幸福基金は、朴槿恵大領領の選挙公約の一つであり、(1)債務調整(金融機関が保有している長期延滞債権を買い入れ、債務不履行者の債務減免1や返済期間の調整、そして信用回復を支援すること)や、(2)低金利への切り替え(第2金融圏2や消費者金融からの高金利債務(20%以上)を低金利債務に切り替えること)により、債務不履行者が再び自立できるような環境を提供することを目的に導入された3。発足から1年が過ぎた現在国民幸福基金はどのぐらいの成果を挙げているだろうか。本稿では今年の3月29日に発足から1年を迎えた国民幸福基金の最近までの成果や残された課題について紹介する。
国民幸福基金施行1年の成果
国民幸福基金施行1年の成果は、債務金額を減免する「債務調整」と高金利債務を低金利債務に切り替える「バクォドリームローン(低金利切替ローン)」に区分して説明することができる。
まず、債務調整の成果から見てみよう。2014年月3日27日現在、国民幸福基金に債務調整を申請した者は29.4万人で、この内24.9万人の債務が調整された。これは選挙公約(5年間30万人)と国民幸福基金の発足当時の目標(5年間32.6万人、1年で換算すると約6.5万人)を大きく上回る数値である。
債務調整対象者24.9万人の内、国民幸福基金がスタートしてから国民幸福基金が債権を買い入れた16.8万人の債務調整状況を見ると、債務総額1.8兆ウォン(1,761億円)4の内、0.9兆ウォン(881億円)の債務が今回の債務調整により減免されていることが分かる。一人当たりの平均減免額は約574万ウォン(56.2万円)である5。
また、高金利債務を低金利債務に切り替える「バクォドリームローン」(低金利切替ローン)6により、平均34.6%の高金利に苦しんでいた4.8万人の負担金利が平均10.9%まで低下することになった。金利調整による一人当たりの平均軽減額は893万ウォン(96.2万円)である。
さらに、国民幸福基金は、雇用労働部の就業成功パッケージ事業7を通じて、国民幸福基金の債務調整対象者1,806人に仕事を提供することができたと説明している。
債務調整支援対象者の属性
表1は、債務調整支援対象者16.8万人の年齢、年間所得、債務金額、延滞期間を示している。まず年代を見ると、「40代」が33.0%で最も多く、次は「50代」(29.5%)、「30代」(20.1%)、「60代」(8.5%)の順であった。平均年間所得は456.2万ウォン(44.7万円)で83.2%の人の平均年間所得が2,000万ウォン(195.9万円)未満であった。2011年度の一人当たり国民総所得8が2,488万ウォン(243.6万円)であることと比べると、その低さが分かる。
債務金額は、「500万ウォン(49.0万円)未満」が41.3%で最も多く、次は「500万~1,000万ウォン(49.0万~97.9万円)」(22.5%)、「1,000万~2,000万ウォン(97.9万~195.9万円)」(20.4%)の順であった。債務額が2,000万ウォン(195.9万円)未満である者は全体の84.2%であり、1人当たり平均債務額は1,107.7万ウォン(108.5万円)であることが確認された。
債務調整支援対象者の平均延滞期間は6年2ヶ月で、「6年超過」が42.1%で最も多く、次が「1~2年(19.9%)」、「2~3年(19.9%)」、「3~4年(8.4%)」、「4~5年(8.4%)」の順であった。
国民幸福基金の今後の課題
国民幸福基金は、債務延滞者の債務負担を大きく緩和し、経済的に自立できるように支援した点からは肯定的な評価を受けているが、債務調整中、再び債務を滞納している者が多数発生していることや教育ローンが適用対象から除外されていること等が問題点として指摘されている。
今後、国民幸福基金は、中途脱落者を最小化するために重病患者や職業訓練受講者など返済能力が低い者を返済猶予対象者として指定する等、返済猶予制度の改善作業を行う予定である。また、国会に法案が提出されているものの成立の目処が立っていない「高金利教育ローンの低金利切替制度」や「教育ローン長期延滞者に対する元金減免制度」が制度化されれば、教育ローンも国民幸福基金の適用対象に含むことを計画している。「高金利教育ローンの低金利切替制度」は、2005年から2009年の間に6~7%の高い金利で教育ローンを借り入れた人々の金利を現在の金利(約2.9%)に切り替える制度である。この制度が国会で成立すると約66万人の金利負担が減ることが予想されている。
また、「教育ローンの長期延滞者に対する元金減免制度」は6ヶ月以上教育ローンを延滞した人々が対象で、国民幸福基金が韓国奨学財団から債権を買い入れると、所得水準により元金の30~50%が減免される。対象者は6.4万人である。
該当法案が国会での成立の見通しが立っていない理由は、野党側が対象者を大学院生まで拡大して適用すること、貸出金利を複利から単利に切り替えること、低所得層の利子を免除すること等を含めて議論することを主張しており、与野党間に意見対立が継続しているからである。
若者の労働市場参加が難しく、正社員として働く若者が減り不安定労働が拡大している現実を考えると、若者にとって学生時代の教育ローンや高い金利の返済は経済的に大きな負担になっていると言えるだろう。また、教育ローンに対する負担増加は経済成長を妨げる要因になる可能性が高い。制度の恩恵が一部の人々に限定されず、必要とするすべての人々が享受できるように与野党が一つになって知恵を絞っていただきたい。
(2014年04月11日「研究員の眼」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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