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- “即効薬”ない人口減少社会への処方箋-労働力不足と移民政策を考える
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日本は本格的な人口減少時代を迎えている。2030年には労働力人口が1千万人以上減少するという推計もある。現在の人口ピラミッドを見れば、これから日本の総人口が増加しないことは明らかで、今後縮小する人口規模に適した雇用制度や社会保障制度などをどうつくっていくのかが問われている。
人口減少を緩和するための処方箋のひとつは、少子化対策を講じて出生数の減少に歯止めをかけることだ。しかし、生まれた子どもが成人し、社会の担い手になるには20年近い年月を要するだろう。もうひとつの処方箋は、大量の移民を受け入れることだ。政府の経済財政諮問会議の中にある「選択する未来委員会」では、『将来的には毎年20万人の移民受け入れも異次元政策の一つとして取り組むべき』との意見も出ている。
また、当面の問題として2020年東京五輪に向けて、建設業界の労働力不足が懸念されている。政府は、「外国人技能実習制度」の運用を見直し、外国人労働力活用の検討を始めている。しかし、即効性があるようにみえるこれら施策は、本当に長期的に人口減少社会にも有効なのだろうか。
「人口減少下における望ましい移民政策~外国人受け入れの経済分析」(独立行政法人経済産業研究所、2014年3月)は、『受入国にとって最も好都合なのは、(中略)自国の不都合を他国からやってくる労働力に押しつけることなのである。(中略)それは低成長と少子高齢化によって生じた財政赤字を将来世代につけ回してきたのと同じ発想による問題の先送りに過ぎない』と指摘している。
即ち、人口減少に対する抜本策としては、少子化対策にせよ、移民政策にせよ、“即効薬”となる処方箋はないということだ。移民政策は受け入れる外国人を日本人に同化させるのではなく、共存する多文化共生社会の構築に基づくことが重要である。異文化の人間同士が共生することは容易ではなく、その実現には長い時間を要するのだ。
人口構造変化の将来予測はかなり明確であるにもかかわらず、新たな社会制度づくりが遅れているのは、社会政策の意思決定が適切に行われていないからだろう。老年民主主義と言われる高齢社会の意思決定システムが、社会の持続可能な政策選択を困難にしているのだ*。これからの人口減少時代を乗り越えるためには、人口減少⇒労働力不足⇒外国人労働者活用⇒移民受入といった対症療法的発想ではなく、まずは新たな人口減少社会のあり方を長期的展望に立って考えることが必要だ。人口減少社会への処方箋として、“即効薬”はないことを肝に銘じておかなければならない。
(2014年04月07日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
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