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オリンピックやワールドカップが出生率に与える影響は?―少子化対策の活力剤になることを期待する―
生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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はじめに
日本中がソチ冬季オリンピックに盛り上がっている。羽生(19)、平野(15)、平岡(18)という10代の選手が、それぞれ金、銀、銅メダルを獲得するなど、日本の若者が世界を舞台に大活躍している。テレビを見ている人の中には、将来自分の子どもがオリンピックで活躍することを夢見る人も少なくないだろう。オリンピックベビーブームやワールドカップベビーブームという言葉をたまに耳にすることがある。しかしながら、オリンピックやワールドカップのような世界的なスポーツ祭典は、本当に出生率に影響を与えているだろうか。本稿では、筆者が感じた素朴な疑問を、簡単な統計手法を使って分析してみた。
出生率に与える影響は?― 平均値の差による検定
分析は、「出生率はオリンピックやワールドカップが開催された年と開催されていない年の間に差がある。」という研究仮説を立て検証していく。この仮説を検証するために、2つの母集団の出生率の平均値に差がないという「帰無仮説」と2つの母集団の出生率の平均値に差があるという「対立仮説」を設定する。
帰無仮説→H0:u1=u2(2つの母集団の出生率の平均値に差がない)
対立仮説→H1:u1≠u2(2つの母集団の出生率の平均値に差がある)
上記の対立仮説の要因としては次のような二つのシナリオが考えられる。一つ目は「オリンピックやワールドカップが開催される年は覚えやすく縁起のいい年であるので、その年に合わせて子どもの出産を計画する人が多く出生率が高くなる」というシナリオである。もう一つは「オリンピックやワールドカップが開催される年は、覚えやすく縁起のいい年であるので、結婚するカップルが増え(あるいは応援等で出会いが多くなり)、次の年の出生率が高くなる」というシナリオである。
分析方法として、1976年から2011年までの日本の「合計特殊出生率1」を用いて、オリンピックやワールドカップが開催された年を「1」、開催されていない年を「0」に区分した。分析期間を1976年から2011年までに限定した理由は、1976年から出生率が2以下になり、以前と比べて平均値の変化が小さく、分析期間による平均値の変化が小さいからである。
オリンピックやワールドカップは4年ごとに開催されるが、冬期オリンピックとワールドカップは同じ年に開催されるので、実際は2年ごとにオリンピックやワールドカップが開催されているので、「0」と「1」の年は交互に表われる。
分析の結果、オリンピックやワールドカップが開催された年の平均出生率は1.54で開催されていない年の1.51より高いという結果になった。これは、「オリンピックやワールドカップが開催される年は覚えやすく縁起のいい年であるので、その年に合わせて子どもの出産を計画する人が多く出生率が高くなる」というシナリオを裏付ける結果だと言えるだろうか。
そこで、平均値の差による検定を試みてみる。まず、2つの母集団の平均値の差の検定では2つの分散が同じである(σ12=σ22 )という仮定で、(1)Leveneの検定と(2)t-testを行った。(1)等分散性のためのLeveneの検定の結果、有意確率は0.970であり、帰無仮説(σ12=σ22 )は棄却できない。(2)次は2つの母集団の平均値の差の検定であるt-testの結果であるが、t値が0.425で有意確率は0.673であったので帰無仮説(H0:u1=u2(2つの母集団の出生率の平均値に差がない))は棄却できなかった。結論的に、「出生率はオリンピックやワールドカップが開催された年と開催されていない年の間に差がある。」という研究仮説は統計的に有意ではなかった。
むすびに
本稿では、日本における合計特殊出生率を用いて、オリンピックやワールドカップが開催された年と開催されていない年の間に、平均出生率に差があるかについて、簡単な分析を行ってみた。
分析の結果、オリンピックやワールドカップが開催された年の平均出生率が高く現れたが、統計的に有意な結果は出なかった。有意な結果が出なかった理由は、当たり前かも知れないが、一国の出生率はある一つの要因で決まることではなく、国の子育て支援策、女性の就業環境、夫の労働時間、家事・育児への参加、保育環境、教育費負担、出産や育児に対する意識など様々な要因が関わって決まるからである。
今後政府が、上記のような問題を解決するためのより積極的な対策を打ち出し、子育て環境が改善されるようになれば、「オリンピックやワールドカップ」も少子化対策の効果をアップさせる活力剤の役割を果たせるに違いない。
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