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- 縮小する家族・拡大する家族-社会保障を担う“家族”という含み資産
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日本の家族は縮小傾向にある。現在の平均世帯人員は2.42人、東京都に至ってはすでに1.99人とふたり以下になっているのだ。かつては3世代世帯など大家族も珍しくなかったが、戦後は核家族である「夫婦と子ども」世帯が標準家族となった。そして、少子高齢化が進展した今日、「夫婦のみ世帯」や「単身世帯」が増加し、その合計は全世帯数の過半数を占めるまでになっているのである。
ところが、近年、新たに拡大する家族がある。成人した子どもが実家で親と一緒に暮らす世帯だ。これまで彼らは「パラサイト・シングル」と呼ばれる親同居未婚者であり、成人後もより豊かな生活水準を求める「独身貴族」だった。しかし、近ごろの状況は全く異なる。若者の非正規雇用の増加が彼らの経済基盤を揺るがし、経済的自立が困難になった結果、再び親と同居し始めているのである。
ジョンズ・ホプキンス大学キャサリン・ニューマン教授は、進学や就職で一旦親離れした子どもが、その後の就職や離職により親との同居を再開するなどの、「縮小と拡大」を繰り返す成人した子どもと親からなる家族を「アコーディオン・ファミリー」と呼んでいる。同氏の著書『親元暮らしという戦略~アコーディオン・ファミリーの時代』*(岩波書店、2013年)によると、これはグローバル経済化が若年雇用を不安定にしたひとつの現象だ。若者の経済的自立を支援する社会政策が確立している北欧諸国ではあまりみられないが、当該制度が不十分なイタリアや日本などでは顕著だ。また、成人の親同居に対する社会的評価は、イタリアなどでは肯定的だが、日本では批判的に捉える人が多いという。
これまで日本の社会保障制度は高齢者福祉が中心で、それ以外は主に企業福祉が代替してきたが、企業の終身雇用制度が崩れ、非正規雇用者が増加し、企業福祉の傘下に入れない人々が増えている。そして「アコーディオン・ファミリー」が経済状況に困窮する若者を支えるセーフティネットとして、インフォーマルな社会福祉になっているというのだ。将来的に高齢者が受給する公的年金が、中年になった稼働能力の低い子どもを扶養する手段となる可能性も高い。
日本の家族はより縮小する方向に向かっており、今後、家族の福祉機能を期待することは難しい。誰もが「アコーディオン・ファミリー」を形成できる時代ではないのだ。日本はすでに社会保障を担う“家族”という含み資産も取り崩しつつあるにもかかわらず、実際の社会保障制度は、潜在的な家族福祉を前提としているのだ。われわれは財政難の中で強い危機感を持ちつつ、家族福祉に依存しない新たな社会保障制度を早急に構想しなければならないのである。
(2014年02月17日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
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