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「見える化」に思うこと - 降水確率50%と傘持参推奨
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
先日電車に乗っていると、「降水確率50%って無意味だよね」という会話が耳に入った。確かに、雨が降るか降らないか、二つに一つだと解釈すれば無意味と考えるのも無理はない。しかし、これまでの経験から判断すれば、雨が降る日の方が降らない日より圧倒的に少ない。季節や地域にもよるだろうが、雨が降るのは10日のうち高々2・3日でないだろうか。ならば、無意味と思えた降水確率50%という情報から、その日は平均的な日より雨が降りやすい条件が揃っていることが読み取れる。同じ情報であっても解釈次第で有用性は高まる。しかし、斯く言う私は降水確率より、「今日は折り畳み傘を持って行くと安心」といったお天気キャスターのコメントを重用している。
さて、解釈が必要な「降水確率50%」といった情報と、とるべき行動が分かりやすい「傘を持参すべき」といった情報1 がある場合、人はどちらの情報により高い価値を見出すのだろうか。答えは、情報の重要度や関連知識の量などにより異なる。その人にとって重要度が低い場合や、関連知識に乏しく情報の解釈が困難な場合は、他者に判断を委ねたいと考え、とるべき行動が分かりやすい後者の情報に価値を見出すだろう。一方、それ以外の場合は判断材料を基に各人特有の事情も斟酌し、自ら判断したいと考えて前者の情報に価値を見出すのではないだろうか。
近年、「見える化」という言葉をあちこちで見受ける。一般的には、判断材料となる情報を全て提供することと同じ意味で使われているように感じられる。先の例で言えば、解釈が必要だがより客観的な情報を重宝する傾向が高まっているということだろう。「見える化」という流行り言葉に対し、私は多少の違和感を覚えている。相手の情報処理能力も勘案せず、ただ膨大な情報を流すこと2 の正当性に疑念を抱いているからだ。一方、「自己責任」という言葉が流行語に選ばれた時から続く自然な流れだと納得もしている。責任を問う機運が高まるほど、「信じられぬと嘆くよりも人を信じて傷つくほうがいい」3などと悠長なことは言っていられなくなる。他者に判断を委ねられない環境では、より客観的な情報提供と同義である「見える化」に対するニーズが高まるのは当然だ。
では、情報の出し手の立場から考えるとどうか。世の中、不確実性は付き物である。いかに精緻に情報を解釈した上でとるべき行動を示唆しても、その行動が功を奏すとは限らない。裏目に出たら、大なり小なり解釈に対する責任を負う。事前に最終的な判断はご自身で行うようお願いしたとしても、文句を言われる覚悟くらいは必要だ。しかし、責任の程度は情報の出し方によって異なる。例えば、(1)出し手が情報を解釈した上でとるべき行動のみを示唆する場合、(2)とるべき行動を示唆すると共に判断根拠となる情報も示す場合、(3)解釈を加えず判断材料となる情報のみ示す場合なら、情報の出し手が負う責任の程度は(1)、(2)、(3)の順に小さくなる。そう考えると、情報の出し手の立場からすると「見える化」はリスク移転(分担)手段の一つとも考えられる。
リスク移転(分担)手段というと、なんだか良いことのように思えるが、必ずしもそうではない。「相手の処理能力や情報の重要性を考慮する」といった美辞麗句を笠に着て、情報の出し手にとって都合のいい情報だけ「見える化」するような不誠実な対応は認められない。「見せてあげている」のではなく「見せることで相手に責任を負って頂いている」という立場なのだから。
情報の受け手も、より多くの情報を得て喜んでばかりはいられない。「見える化」はリスク移転(分担)手段の一つとも考えられることをよく認識しておいたほうがいい。つまり、「見える化」は、受け手に情報を処理する能力を培い、かつその労を厭わず、更に自ら下した判断に責任をとることを求めているのだ。
(2013年10月17日「研究員の眼」)
03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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