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- 素材の魅力を捉えて自由に発想する力 - 第3回産廃サミットから見えてきたこと
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子どもがモノを使って遊ぶことの本質を理解した気がした。株式会社ナカダイ1主催の第3回産廃サミット2で開催された、「まちの保育園」3によるワークショップを見学した筆者の感想である。幼児教育や保育の専門家であれば分かりきったことかもしれないが、筆者にとっては、モノづくりやまちづくりにもつながる重要な意味を持つ発見であった。
同保育園では、ナカダイの廃棄素材を導入して、子ども達に自由に使わせている。ワークショップでは冒頭にその様子を映像で紹介してくれたが、触って素材の感触を確かめようとする子、球形の素材をハイハイで追いかけようとする子、ひたすらU字のボルトを穴に入れようとする子など、実に子どもらしい遊び方をしていた。
これを見て、子どもと大人の素材への向き合い方が本質的に異なることに気が付いた。子どもは素材を選んだ時点で、素材の何らかの魅力に興味を惹かれており、それを思い思いに試す。それが0~2歳児にとっての遊びなのである。大人は興味を惹かれる前に、素材の意味を知ろうとする。何に使われていたのか、なぜこの形なのかといったように。そしてそれを使ってどのように遊べるのか、何に使えるのかを考える。
講師の中西エリナさんの説明によると、「まちの保育園」では絵の具を使った遊びでも、絵の具が絵を描くための材料だとは教えない。絵の具に興味を持てば自ら使い始めるという。この場合使うことは遊びであり、遊びは自分が興味を持った素材と向き合う行為と言えるのではないか。同保育園ではこのような活動を図工や美術とは捉えておらず、「素材と仲良くなる活動」と説明してくれた。
廃棄素材は、既成の玩具と異なり、これでどのような遊びができるのかという意味を提示していない。だからこそ、その形や色、質感といった素材の持つ純粋な魅力が子どもを惹きつけ、自由な遊びを引き出すのではないか。そこに、子どもがモノを使って遊ぶことの本質があり、子どもの育ちにおいて廃棄素材を活用する意義があるのである。
ナカダイの中台澄之(なかだいすみゆき)さん4に、廃棄素材を販売する事業を始めた当初から、このように活用されると考えていたかどうか伺った。すると、そもそもの原点には、ご自身のお子さんが1歳の頃から、事業所にある素材を使って熱心に遊んでいることがあるという答えが返ってきた。素材で遊んでいるときのお子さんは、大人では考えられないほど豊かな発想力、発想の自由さを発揮して、いつも驚かせてくれているというのである。廃棄素材が子どもの育ちに活かせるという確信があったのである。
素材の本質的な魅力を捉えて自由に発想する力を養うことができれば、自分が生きる環境の捉え方や社会に対する向き合い方にも違いが出てくるのではないだろうか。既にあるモノや空間に光を当てて、魅力的なモノや街に再構築するという、現在のモノづくりやまちづくりに求められていることにもつながる気がするのである。
既に様々な経験をしている大人は、むしろ素材の本質的な魅力を捉えるのが苦手である。今年、「廃棄物を言い訳にしないデザイン」というテーマに込められた思いに向き合い、産廃サミットに挑戦した53組のクリエイターは、どこまで素材の本質に迫れただろうか。
(2013年09月25日「研究員の眼」)
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03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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