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逃げ水か、呼び水か、はたまた逃げ腰か ~ 公的年金の支給開始年齢引き上げ議論の真意
保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫
『広辞苑』(岩波書店)によると、
「逃げ水」とは、蜃気楼の一種で、前方に水たまりがあるようで、近づくとまた遠のいて見える現象、「呼び水」とは、ポンプの水が出ない時、上から別の水を注ぎ込んで水が出るようにすること。その水、を指すそうだ(紙幅の都合で、筆者が一部を要約した)。
日本の公的年金は「逃げ水」年金と批判されてきた。厚生年金の受給開始年齢が55歳から60歳、60歳から65歳へと次第に引き上げられてきたからだ。今月21日に設置期限を迎える社会保障制度改革国民会議では、受給開始年齢を65歳から67~68歳へ引き上げることが議論に上った。結局、報告書では「直ちに具体的な検討を行う環境にはない」としつつ「検討作業については速やかに開始しておく必要がある」という記載になり、「年金年齢先送り」という新聞の見出しも見られた。だが、もし受給開始年齢の67~68歳への引き上げが国民会議の報告書に盛り込まれていれば、「逃げ水」年金という批判が再び盛り上がっていただろう。
しかし、「逃げ水」と呼ばれる受給開始年齢の引き上げは、同時に「呼び水」でもある。これまでの歴史を振り返ると、受給開始年齢の引き上げを追いかける形で、高齢者雇用の促進が法制化されてきた。最近でも、今年度から厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢が引き上げられるのを目前にして、昨年8月に希望者全員の65歳までの雇用確保を図る高年齢者雇用安定法の改正が成立している1。
実は、受給開始年齢の引き上げの具体化は簡単ではない。現在、年金財政のバランスが国民年金と厚生年金で違っており、両者のバランスを取りながら受給開始年齢を引き上げるのが難しいためだ。それでも受給開始年齢の引き上げが議論に上るのは、年金財政への効果だけでなく、高齢者の就業に対する「呼び水」の効果が期待されているためだ。長寿化が進む中で、これまでどおりの働き方や産業構造でよいのかが国民に問われている。
年金財政の見通しは、将来の人口や経済の予測を織込んでいる点で、日本の将来の写し絵と言える。国会のねじれ状態が解消した今こそ、「逃げ水」年金の議論を「呼び水」にして、政治家も、そして政治家を左右する国民も、「逃げ腰」2にならずに将来の日本のあり方を検討すべきではなかろうか。

03-3512-1859
(2013年08月06日「研究員の眼」)
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