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1.カンフル剤に頼る日本経済
第二次安倍内閣が発足し、デフレ脱却を目差して強力な金融緩和と財政政策による景気刺激を行おうとしている。マスコミではアベノミクスと命名されているが、これには期待と不安の両方がある。
安倍総理は初閣議で緊急経済対策の策定を指示したが、景気の落ち込みに対する迅速な対応という期待と、財政赤字拡大という不安がある。師走の総選挙のために2013年度予算は成立が大幅に遅れることになるので、何もしなければ来年度はじめに予算執行の空白が生じてしまう。これを防ぐために今年度の補正予算が大型になるのはやむを得ないが、東日本大震災の被災地では人手などのネックから公共事業の執行が遅れており、報道されているような10兆円を超える規模は過大ではないかという懸念がある。
財政政策はカンフル剤のようなものであり、薬を服用すれば元気にはなるが、病気を治すものではない。普通の病気であれば、カンフル剤を使えば体力が持ち直し、後は薬を止めても自力で病気は直る。しかし、バブル崩壊後の日本経済は、薬を使えば回復するが、止めれば元に戻ってしまうということの繰り返しで、財政赤字による景気刺激という薬が手放せなくなってしまった。
日本経済はバブル景気の崩壊後低迷が続いてきたが、景気がそれなりの回復を見せた時期もあった。財政政策による景気刺激はそれなりの効果はあったが、規模を縮小すると回復が続かないことが問題だった。
2.金融緩和強化の課題
長期にわたるお金と名目GDPの関係を見てみると(図)、バブル崩壊後に名目GDPが全く増加しなくなった後もお金は緩やかながら増加を続けてきたことが分かる。
バブル崩壊直後には500兆円程度に達していた名目GDPは2011年度には473兆円にとどまっているが、お金の量は500兆円程度から約800兆円へと増加している。日銀が十分お金を増やさないことがデフレの原因だとされるが、20年以上にわたる金融緩和の結果、この比率から見れば日本の経済規模に対してお金は多すぎるとも言えるくらいになっている。金融政策の副作用は、あまり意識されないが、すでに経済に歪がかなり貯まっている可能性が高い。
金融緩和政策を強化していくことについては、気を付けておかねばならない問題が二つある。第一は、薬の量を増やす方法が難しくなっていることで、第二は、もっと薬を強くすればいつかは効果が出るはずだが、どれくらい薬を増やせば効果が出てくるのか予想ができないことである。
金融緩和政策でお金を増やす方法は、通常は銀行貸し出しを通じたものだが、これはすでに金余りの状態で効果が小さくなっている。国債の大量購入、外債の購入、株や土地などの資産の購入などが必要になっているが、これにはそれぞれ大きな副作用が心配される。
第二の点については、薬が効き始めたときに予想以上に強い金融引き締めが必要になる可能性があることを念頭に置いておかねばならない。現在は、物価は上がらないだろうという予想と超低金利のために、家計も企業も現金や預金を大量に抱えている。このため、日銀が供給したお金は滞留していて、物価や地価が上昇し難くなっているが、ひとたび物価上昇が起こり金利が上昇したときには、お金の動きが急に良くなる可能性がある。予想外のインフレ圧力の上昇や、金融商品の価格の乱高下がおこる恐れもあることに対応できるように企業や消費者は備えておく必要があるだろう。
3.求められる持続性
ともあれ2013年経済は、金融緩和に対する期待などから円高の流れが反転したことや、海外経済が持ち直すと見られることなどから回復するだろう。問題はその後である。
物価が下落を続けるデフレは、企業や消費者の心理を悪化させる困った症状だ。しかし、解熱鎮痛剤で熱や頭痛が改善しても風邪が治るわけではないように、この症状を取り除くだけで日本経済が抱えている病気の本体が治るというわけではない。
デフレからの脱却だけでは、日本経済をバブル前の状況に戻すことができるだけだ。現在の状況に比べれば、その頃の経済状況はずっとマシだったように思える。しかし当時は、何とか持続的な経済成長ができないという問題を改善しようとしてバブル景気を引き起こしてしまったのだから、それでもまだ解決すべき問題が残ることは確かだ。
大規模な景気対策で経済に勢いを付けるという薬は、もう何度も使えるわけではないだろう。残された数少ないチャンスを今度こそ生かすためには、景気が持ち直している間に、経済成長を持続的なものにする方策を検討することが必要だ。
(2012年12月28日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
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