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- 環境整備は「保険比較サイト」の規制で十分か―消費者力を高める取り組みの必要性―
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金融審議会の「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループ(以下、WG)」では、(1)近年急速に存在感を増しつつある、いわゆる保険ショップを中心とした乗合代理店に対する規制のあり方とともに、(2)インターネット上の保険比較サイト等、保険会社や販売チャネルに接触する以前の段階で関与する他者1の行為について検討が進められている2。現時点では検討の途上であり、具体的な結論が示されているわけではないものの、拙い読解力ながらそもそもの主要な問題意識について簡単に整理すると、(1)乗合代理店に対しては、複数の保険会社の商品の中から顧客に最適な商品を選択・提案できることを謳いつつ、より高額な手数料が期待できる商品に誘導するなど、消費者の知識不足を逆手に取った募集行為を誘発するおそれがあることから、態様が類似している保険仲立人(ブローカー)が負う手数料開示義務や誠実義務と同様の規制を課すべきではないかというもの、(2)広告料や(見込み客の)紹介手数料を徴収している比較サイト等については、他社商品との比較が保険業法において厳しい制約が課せられている生損保の販売チャネルとは異なり、必ずしも比較の根拠が明瞭とはいえない状況に対して何らかの規制が必要ではないかというものであろう。
前者のように、手数料の多寡に依拠して本来の顧客ニーズに反した募集行為が横行しているとすれば問題であり、早急に是正されるべきではあるが、後者については、消費者利便性の向上に寄与している側面もあることを考えれば、規制一辺倒ではなく、異なるアプローチについても検討してみる必要があるのではないだろうか。
WG資料では、比較サイト等に対する論点として、(a)保険会社等の情報の転載に留まる場合と、特定の商品を推奨するなどの意見表明を含む場合、(b)単なるコンサルティングに留まる場合と、コンサルティング後に特定の保険会社等に誘導する場合、(c)見込み客を保険会社等に紹介する場合と特定商品の推奨を伴う場合のそれぞれについて規制の要否を検討することとしている。
保険について必ずしも十分な知識・判断力を有していない消費者にとって、(a)~(c)のいずれも後者の推奨または誘導といった行為は、自身のニーズとは乖離した不適切な商品の購入につながる恐れもありうるため、将来のトラブルを未然に防ぐという観点からは何らかの規制の必要を認めることもできるだろう。
しかし、一般に消費者は、意思決定のためのコスト(心理的負担)が増大することを避ける傾向がある上、それぞれの商品について優劣や自身のニーズへの適否を評価するための確たる基準を持たないことが多いことから、運営側の、あるいは他の利用者の評価を示すことなく、フラットに多数の選択肢を示された時点で、膨大な情報量を前に思考停止に陥ってしまうのではないだろうか。
我々が旅行先や飲食店を選ぶ際などに、予め販売元のお奨めやユーザレビューを確認する行為は、ほとんどの場合、膨大な選択肢を前に選択を誤るリスクを少しでも減らすことが目的であって、最良の選択肢を選び取るためではないだろう。消費者は、数多の候補について一括比較できる「利便性」ではなく、“目利き”や“集合知”による「お薦め」を求めているのだ。
これまでのWGの議事録、資料等を見る限り、議論の中心は、「お薦め」の質を担保するための規制のあり方にあるようだが、一口に消費者のニーズに応える適切な商品を推奨といっても、多数の保険会社・商品がある中では、消費者が容易に選択できるほど少数に候補を絞り込むことには非常な困難が伴うと考えられる。一方で、トラブルの温床になる危険性があるからといって明瞭な基準を示した上での推奨行為まで禁止してしまっては、却って消費者の保険離れを誘発しかねまい。
消費者のニーズに反したり、不明瞭な根拠をもとにした、「事業者側の論理に基づく」推奨行為を防ぐための規制の必要性はあろうが、保険を比較購買するための環境を整備していく中では、あわせて、安易に「お薦め」を鵜呑みにせず根拠を確認するなど、いわゆる「消費者力」を高めてもらうための取り組みも必要ではないだろうか。WGでのさらなる議論の広がりに期待したい。
(2012年10月30日「研究員の眼」)
井上 智紀
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