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1.Newsweekの決断
SF作家レイ・ブラッドベリによって1953年に書かれた小説『華氏451度』では、本の所持が禁じられた社会が登場する。情報が統制・操作され、人々が物事を深く考えようとしなくなる社会の恐ろしさを描いた本だが、題名の「華氏451度」は紙が燃え始める温度なのだそうだ。
米国の雑誌Newsweekは、10月18日、米国版・国際版を2013年初めからデジタル・フォーマットに完全移行し、紙媒体での発行を年内で終了すると発表した。出版メディアのデジタル化という時代の流れに対応したものだという。Newsweekなどの主要週刊誌は、Amazonのkindleで購入すれば月額$2.99で購入できる。あまりに安いので一冊あたりの間違いではないかと、思わず値段を見直してしまった。
紙の本が無い世界というのは、何となく気持ちが悪いと思うのは、筆者が古いアナログ世代に属するせいなのだろうか。
2.電子書籍の魅力
今年の夏に亡くなった華氏451度の著者レイ・ブラッドベリは、長らくインターネットに批判的だったが、昨年末にこの本を電子化することに同意した。ペーパーバックは$9.15で買えるが、電子版の方が値段は高くて$12もする。紙に印刷して配送するためのコストが高いことが、紙に印刷された雑誌や書籍がデジタル化された出版物に取って代わられようとしている原因だと考えていたが、それだけではないようだ。
筆者の語学力では英語の本を読むのに辞書が手放せない。日本語の文庫本のように電車の中でペーパーバックの英語の本を読むという訳にはいかなかったのだが、スマートフォンと電子書籍のおかげでどこでも読めるようになった。それは文章中の単語を指させば、たちどころに英和辞典が現れて意味を教えてくれるからだ。
読んでいるところにしおりを入れることはもちろん、書き込みをしたり、重要な部分に色をぬったり、あちこちに付箋を貼るように印を付けるなど、紙の本でできることは大体できる。重たい本を持ち歩く必要がないし、本の置き場に困るということもない。
3.消費者が求めているコト
Amazonが登場した際には、書籍販売をすべて通信販売で行ったとしても大したビジネスにはならないと思った。そもそも通信販売で配送料を払ってまで購入する人は、それほどいないだろうとも思った。しかし、インターネットを使った通信販売は書籍だけでなく、日本でもパソコンから熱々の釜飯の出前に至るまで、ありとあらゆる商品に広がり、書籍の通信販売は印刷された本や雑誌からデジタル化された情報の販売へと進化を遂げている。
華氏451度が恐れたような紙に印刷された本が無くなる日が来るのかどうか、筆者にはまったく予想もつかない。しかし、それはレイ・ブラッドベリが恐れたような、情報統制の社会ではなく、きっと、いつでもどこでも出版物が読めるという便利な世界に違いない。だからこそ著者はこの本の電子化を認めたのだろう。
紙の本の方が電子情報よりコストが高いはずにも関わらず、使いやすさや便利さが華氏451度の紙の本が$9.15でデジタル版が$12で売れるという価格差になっている。消費者が求めているモノは何かではなく、消費者が求めているコトは何かを追及したことが成功の原因ではないだろうか。
(2012年10月24日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
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