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先日、初めて韓国・ソウル市を訪れた。市内の移動手段は、もっぱら地下鉄だった。ソウル市の地下鉄は現在9路線あり、東京の地下鉄と同様いずれも明るく清潔で、車内でスマートフォンや携帯電話を使用する人も多い。走行中も話をしている人をよく見かけたが、車内での通話がマナー違反なのか容認されているのかはよくわからなかった。駅の自動券売機や電車の行き先表示などは中国語、英語、日本語など多言語に対応しており、とても便利だった。
ソウルの地下鉄が東京と大きく異なる点は、駅の構造だ。ソウルではホームドアが基本的に設置されている。少なくとも私が乗車した5路線のすべての駅は、東京メトロ南北線と同じように、ホームと線路の空間がガラスの壁で仕切られていた。視覚障がい者や高齢者、子ども連れなど移動制約者はもちろん、誰にとっても安全で安心して利用できるユニバーサルデザインになっている。
私は車内に入ると優先席近くに立つことにした。10回ほど乗車したが、優先席にはいつも高齢者(一度だけ赤ちゃんを抱いた女性)が座っていた。また、普通席でも高齢者が立っていると、若い人は席を譲っていた。やはり儒教精神に基づき高齢者を敬うことが浸透しているのだろうか。
また、驚いたことに韓国の高齢化率は現在11%程度と日本の23%に比べるとかなり低いのだが、地下鉄車内では高齢者の姿が東京より目立っていた。その理由は、ソウルでは65歳以上の人は地下鉄の運賃が無料で、元気なお年寄りは地下鉄に乗って街のあちこちに出かけるのだという。私が立ち寄った街の中心部の公園では大勢の高齢者が集まり、碁や運動を楽しんでいた。
このようにソウルの地下鉄は、ホームドアや優先席という施設面、若い人が高齢者に席を譲るという意識面、高齢者の運賃無料という制度面が三位一体となって、高齢者にとって手軽に利用できる移動手段になり、外出しやすい街づくりができているようだ。その結果、急速に高齢化が進む韓国社会であるが、街の中に高齢者の姿が多く見られるのであろう。
ソウルの地下鉄を利用してみて、高齢社会のモビリティを高めることが、高齢者の外出を容易にし、健康と消費を促すように感じた。日本でも街のバリアフリー化に加えて、鉄道駅のホームドア設置など高齢者が安全に安心して外出できる都市環境整備を進めることで、高齢者の就労や社会参加を促進することができる。そしてお年寄りの外出は健康を増進し、個人資産を活かし、高齢化する社会経済の活性化にも繋がるだろう。都市化が進む高齢社会とは、本格的な「お都市寄り」の時代なのである。
(2012年10月22日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
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