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- 「人は、なぜ走るのか」-合理的に説明できない価値の魅力(2)
今日から10月、スポーツの秋だ。今や市民マラソンが大変な人気である。8月に行われた来年2月の東京マラソンの出場者募集も、フルマラソンの一般応募者は30万3,450人と定員の10倍を超えた。国内のランニング人口は900万人以上ともいわれ、スポーツ関連市場への影響も大きい。私はフルマラソンを始めてまもなく10年になるが、この間、『人は、なぜ走るのか』と考え続けている。しかし、この哲学的な問いに答えるには、私はまだあまりに“走ること”を知らない。
一般的なランニングの効用は、心身の健康によい、認知症予防や脳力アップ、ストレス解消になるなどいろいろ言われる。私は仕事柄、レポートを書いたり講演したりする機会があるが、レポートの構成やコラムの着想、講演の話の切り出し方など、ほとんどを走りながら考えるといってもいい。通常は1時間ほど走ると、頭のなかに詰め込んでおいた様々な知識や情報が整理される。私の場合、確かに“走ること”は職業上の不可欠な行為と言えるだろう。
では、私はなぜ走るのだろう。原稿を書くためだろうか。それは違う。そもそも“走ること”は、何か目的があり、それを実現するための手段なのか。確かに10年前には、何か別の目的・動機があって走り始めた。しかし、そのうち“走ること”自体が目的化し、何々のためではなく、“走ること”が面白いから、走ると気持ちいいから、ただ走りたいから、
走り始めた頃は、雨の降る日にジョギングをしている人をみて、なぜこのような悪天候の日に走るのだろうと不思議に思ったことがある。しかし、走る経験を積むうちに、“走ること”は自然と一体になり、自らが自然の一部になることだと思った。走りながら風や光、音、匂い、心臓の鼓動や血流によって生きていることを実感する、それこそがランニングの醍醐味だ。そのためには自分自身が自然と同化することが必要で、雨が降り、風が吹くことでますます自然に近づくことができるのだ。 古代の壁画に人が両手を挙げて走る姿が描かれている。人は“走ること”で生きる喜びを表し、嬉しいときに本能的に走る習性があるのかもしれない。複雑化した現代社会において、人間はあまりに多くのモノを身に付け過ぎた。人は“走ること”によって心と体の老廃物を体外へ排出し、“原初状態”に戻ることができるのではないか。『人は、なぜ走るのか』という問いに対する合理的な答えはまだ見つからないが、哲学者・内山節さんの『合理を超えた問いに、合理的な答えなどあろうはずがない』(「歴史の変わり目を感じる」日本経済新聞、2012年8月26日)という言葉が思い浮かぶのである。
土堤内 昭雄
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(2012年10月01日「研究員の眼」)
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