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- もはや「新興国市場」ではない-裕福層の購買力と新興国経済のポテンシャル
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新興国の所得増加が著しい。
先進国の経済成長率が低下するなか、新興国は長く世界の成長を牽引してきた。この間、世界の工場となったアジア新興国をはじめ、ブラジルなど多くの国で工業化が進んだ。生産性の低い農業を行なう労働者が減り、安定した賃金収入を得られる工場労働者が増えたことで、新興国の所得水準が高まった。その結果、2000年には人口の80%以上を占めていた低所得層は減少し、2010年には半数以下になっている1。ただし、多くは下位中間層にとどまり、上位中間層や裕福層の人口はまだ割合としては少ない(図表1)。
しかしながら、この間の購買力の増加は目を見張るものがある。購買力の目安として「所得水準×人数」を考えると、2000年からの10年で、新興国の購買力は倍以上に拡大している(図表2)2。ここで、注目したいのは、裕福層や上位中間層の購買力の高さである。図表2を見ると2010年における購買力の源泉は、すでに4分の1が裕福層に、そのほかの4分の1が上位中間層にあることが分かる3。裕福層や上位中間層となった人は比較的少数だったが、これらの層の購買力は無視できない大きさになったのである。
この結果、新興国でも裕福層向けのビジネスが展開されるようになった。多くの裕福層が海外旅行を楽しむようになったし、新興国の都市部に高級ブランドショップが立ち並んでいるのも自然な光景になった。
最近は、新興国の低所得層人口の多さに着目した、いわゆるBOPビジネス(Base of the Pyramid:低所得層を対象としたビジネス)が注目を浴びつつあるが、やはり裕福層マーケットの拡大がまだまだ続くことは見逃せない。
今後の裕福層マーケットの拡大余地を鑑みれば、こうした裕福層を対象にしたビジネスは、今までよりもいっそう重要となっていくのではないか。経済産業省の通商白書2011によると、2020年における新興国の裕福層は人口の15%を占めるようになる(図表1)。割合としてはそれほど大きくないが、購買力はさらに高まり全体の3分の1を占める(図表2)。換言すれば、新興国の消費はますます裕福層中心になされるようになる。そして、多くの中間層にとどまっている人たちは将来の裕福層候補であり、裕福層マーケットのポテンシャルの大きさを示していると考えられる。
また、新興国では「お金持ち」も増える。
新興国代表のBRICsでは保有資産100万ドル(8000万円)以上の資産家がすでに160万人もいる(図表3)。今は、日本の資産家数(約300万人)に及ばないが、2016年には倍以上の390万人近くまで増える見通しである。ちなみに、保有資産5000万ドル(40億円)以上の「ウルトラ資産家」になると、すでにBRICsの方が多い(図表4)。
新興国は大きな人口を有する国が多く、こうしたお金持ちは絶対数で見たら、どんどん増えていくだろう(ただし世界の中における、富の偏在=格差はますます加速するかもしれない)。「ウルトラ資産家」は極端としても、少なくとも今後、新興国では日本の所得水準から見ても豊かな人が劇的に増えていくに違いない。
こうした裕福な人を対象にした市場は、新興国といっても、もはや「低機能だが低価格」という製品を売る市場ではない。そこは、高付加価値の商品をいかにアピールしていくかという、先進国と同様の市場と言えるだろう。
新興国では、すでにiPhoneに代表される高機能スマホが爆発的に売れているし、親は子供を良い塾に通わせようとしている。おそらく、今後、こうした高付加価値のモノ・サービスを売る市場は劇的に拡大していくだろう。そして、新興国の消費を取り込んで成長を維持しようとする企業では、この高付加価値市場をいかに開拓していくかが、以前にも増して重要となっていくように思う。
(2012年09月28日「研究員の眼」)

03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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