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- “くじ引き”の効用-「ふつうの人」の民意を活かす
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今年、私は自宅マンションの管理組合の理事になった。立候補者がなく、抽選で当たったのである。私は決してくじ運が良い方ではない。宝くじに当たったこともなければ、東京マラソンの抽選にも4年連続で落選している。しかし、今回は見事に当たった。正確にいうと「当たってしまった」のである。
最初の理事会では“くじ引き”で担当役職を決めた。仕事は毎月の理事会出席のほかに、防災担当は防災訓練に向けて地元消防署との打合せがあり、夏祭り担当はイベント企画、食材や道具類の調達など、みなさん各役割に応じて実に多忙だ。担当役員以外もイベント当日は各々の分担があるが、多くの人からは、『当たってしまったけど、いい経験になる』といった前向きのコメントが聞かれる。 私自身も次のようなメリットを感じている。まず他の住民と自然と親しくなり、幅広い世代の人の意見を聞くことができる。次いでマンション内や地域における課題がわかり、地元行政の動きや自らの関心の薄い領域のことも知ることができる。また、退職すると地元での生活時間が長くなり地域の居場所が重要になるが、今回の経験はそのための事前の環境整備になることも大きなメリットだ。 このように管理組合の役員選出方法は実質的には“くじ引き”による抽選制だが、私はこの“くじ引き”方式をむしろ好ましいと思っている。それは無作為にかなりの数の居住者が組合役員を経験することで、「ふつうの人」による自治組織が形成され、コミュニティがつくられていくからだ。役員に「当たってしまった」人たちには個別の事情もあるだろうが、熱心に活動している。結果的には、管理組合の“くじ引き”による役員選出が地域コミュニティ形成に資することになっているのだ。 今日、少子高齢化が進展する人口構造のなかで、間接民主主義では政策決定のプロセスに公正に民意を反映することが難しい。この危機に対して、パブリックコメントや公聴会の開催、各種世論調査など直接的に民意を把握する様々な取り組みが行われている。しかし、そこで意思表示をしないサイレント・マジョリティ(声なき多数派)である「ふつうの人」の声はどこにも届かない。 近年では無作為抽出による市民の声が反映される討論型世論調査*や市民討議会方式などが試行され、裁判員制度では抽選で選ばれた「ふつうの人」が裁判員として専門的な司法の場に参加している。このように今日の民主主義の機能不全を防止するためには、“くじ引き”による「ふつうの人」の民意を活かすことが有効ではないだろうか。住民の中から市区町村議員の一定割合を“くじ引き”で選ぶことも、あながち荒唐無稽とは思えないのだが、皆さんはいかがお考えでしょうか。
(2012年08月13日「研究員の眼」)
土堤内 昭雄
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