コラム
2012年07月17日

時代写す「珍百景」-「変えてはならないこと」は何か

土堤内 昭雄

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視聴者から寄せられた面白い風景を紹介する「ナニコレ珍百景」というテレビ番組がある。私は社会のささいな変化を観察することが好きで、時々、この番組を見る。「珍百景」とは、珍しい風景ということだが、私が興味を持つのは人間の行為に係るちょっとした変化が垣間見える光景である。そこで私が最近、身の回りで見た「珍百景」の一部を紹介しよう。

私の友人が高齢になった母上の身を案じて、携帯電話をプレゼントした。緊急事態が発生したときにいつでも連絡が取れるようにとの配慮である。しかし、携帯電話を受け取った母上は、しばしば携帯電話をどこに置いたかがわからなくなるという。そこで携帯電話に紐をつけ、自宅電話にくくりつけた。これこそ本物の固定電話である。なんとも微笑ましい「珍百景」だが、シニア向けの商品開発はつくづく難しいと思う。

2番目の「珍百景」は、散歩についてである。私は早朝ランニングをするのだが、そのとき犬の散歩をする人をよく見かける。従来、犬の散歩は犬が飼い主を引っ張るようにして歩いていたものだ。ところが最近見かける光景は、飼い主が犬を先導するような主客転倒した散歩である。赤信号などで立ち止まると、小型犬などは疲れたようにしゃがみ込み、青信号になると飼い主に引きずられるようについていく。飼い主の体力が向上したのか、犬の体力が低下したのか・・・。いずれにしても健康志向が行き過ぎて、逆に人も犬も病気にならないよう、くれぐれも主客転倒にご注意を!

3番目は、ベビーカーを押して赤ちゃんの散歩をするお母さんの姿である。ベビーカーを押しながら片手で携帯メールを夢中でやっている。そこまでしてつながる必要がある人とは誰だろう。そのとき本当につながるべき相手とは、目の前にいる赤ちゃんではないだろうか。今日、子育てする人が社会的に孤立し、閉塞感があり、自然体で子育てに向き合うこと自体がとても難しいからだろうか。情報化が進展すればするほど、対面コミュニケーションをもっと大事にしたいものである。

このように良かれ悪しかれ、あなたの周りにも“微笑ましい”「珍百景」から“いかがなものか”という「珍百景」まで様々な風景が広がっているだろう。しかし、世の中には『不易流行』という言葉があるとおり、時代とともに「変えるべきこと」と「変えてはならないこと」がある。前者を議論することは多いが、後者を議論する機会は少ないように思う。時代の小さな変化を写す「珍百景」を鏡に、現代社会の鑑となる『変えてはならないことは何か』を考えてみることが、今、必要ではないだろうか。

(参考) 研究員の眼『ヒマジン、イマジン、オリジン~ビジネスパーソンの「当たり前」』(2012年7月2日)

(2012年07月17日「研究員の眼」)

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