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1.危機はスペインに波及
欧州の財政・金融危機は、ついにユーロ圏第四の経済大国であるスペインを救済できるかどうかに焦点が移ってきた。ギリシャの再選挙後にメキシコで開催されるG20の課題は、言うまでもなく欧州危機をどうやって抑え込むかということにつきる。
ユーロ圏の抱えている問題は、圏内の不均衡調整に為替レートが使えないということに大きな原因がある。ドイツ経済と危機に陥っているギリシャやスペインなどとの違いは、財政状況だけではない。通貨統合後にドイツの物価は約2割上昇したが、ギリシャやスペインなどでは4~5割も上昇している。単純化すれば、ギリシャやスペインでは賃金が上がり過ぎており、大幅な賃下げなどによって生活水準を引き下げることが必要なのだ。(2010年10月27日付の当コラム「G20の陰の主役:ユーロ圏内の不均衡」参照)
2.強まる緊縮財政への反発
増税や年金を初めとした社会保障給付のカット、公務員給与の引き下げなどの緊縮財政政策は、すべて経済力に比べて高くなり過ぎた生活水準を引き下げる効果がある。財政赤字国に急速なデフレを要求する厳しい緊縮財政政策が、ギリシャやスペインの国民から激しい反発を招くのは当然だ。ギリシャの再選挙の結果いかんに関わらず、今後、財政赤字国に対する緊縮財政の要求を緩和する交渉が行われることになるだろう。
一方、緊縮政策の緩和はドイツがより大きな負担を強いられることを意味している。ドイツのメルケル首相は、ユーロ共同債を初めとした解決策に対して常に後ろ向きで、財政赤字国にあまりに厳しい緊縮財政を求めると、批判されることが多い。しかし、緊縮財政を強いられる財政赤字国と負担増に反発するドイツ国内の板挟みとなって、メルケル首相が最も苦しい立場にいる。緊縮財政の緩和や救済対象国の拡大はドイツの負担をより重くし、国民の反発がメルケル首相を窮地に追い込むことになるに違いない。
3.カギを握るドイツ
ギリシャがユーロから離脱することになれば、ギリシャよりはるかに経済規模の大きいスペインに問題が波及して事態の収拾はより難しくなる。これが、ギリシャの救済が重要だった理由だ。しかし、既に問題がスペインに拡大してしまったことで、ギリシャがユーロから離脱するかどうかは決定的に重要な問題ではなくなった。
ユーロの崩壊という激震を避け、時間をかけて問題を解決するためには、その間、さまざまな形でドイツが財政赤字国の支援を続けなくては無理だ。今後、欧州の財政危機がどう推移するかのカギを握るのは、ギリシャでもスペインでもなく、支援する側のドイツだ。2013年秋にはドイツの総選挙が行われる。そこで財政赤字国支援の負担に対するドイツ国民の不満が爆発しメルケル政権が崩壊すれば、ドイツがユーロから離脱するというシナリオも現実味を帯びることになる。
さて、来年のことを言うと鬼が笑うというが、1年後の今頃は、どんな状況になっているのだろうか。筆者の予想が間違っていることを切に願っている。
(2012年06月12日「エコノミストの眼」)
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