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- Facebookで企業は変われるか-ソーシャルメディアの活用が問いかける企業の姿勢
米国の調査会社であるSocialbakers社が公表している統計1によれば、わが国のFacebook利用者数は約900万人に達し、世界23位の規模となっているという。性別では男性が55%、年齢別では25~34歳が35%、19~24歳が23%とこの両者で約6割を占めるなど、現時点では男性や若年層が利用者の中心を占めているようである。昨年の東日本大震災の際、固定電話や携帯電話といった電話網が機能しない中、被災地自治体や国をはじめとした行政機関においてもアカウントの開設が相次ぎ、情報発信のツールとして用いられるようになったことで急速に利用者数を拡大したTwitterに比べれば後発ながら、この半年間で375万人増という成長率の高さを鑑みれば、今後も更なる利用者層の拡大が見込めよう。また、60歳代後半では57%、70歳代でも約4割2とすでに高齢層でもインターネットの利用率が高まっていることを考慮すれば、このようなインターネットの普及初期同様の利用者構成の偏りについても、急速に人口構成に近づいていくのではないかと思われる。
(株)アイプラネット社が運営するWEBマーケティング研究会3が実施した調査のなかでFacebookを始めたきっかけとして「友達に勧められたから」が最も多くなっていることにも現れているように、急速に進む利用者数拡大の背景のひとつには、実名登録制であることに起因する既存の人間関係を基盤としたコミュニケーション手段としての活用可能性の高さがあるようだ。同調査によれば、実際の利用目的としても「面識のある友達とのコミュニケーション」(75%)が最上位で唯一半数を超えており、以降「趣味など個人的な情報収集」(33%)、「新しい友達探し、個人的な人脈の拡大」(25%)、「暇つぶし」(23%)が続くものの総じて低い割合に留まっている。
一方で、このような利用者数の拡大とともに、企業や行政においても、消費者への情報発信やコミュニケーション・ツールとしてのFacebookの活用可能性に対する関心が高まっている。WEBマーケティング研究会が東証一部上場企業を対象に昨年秋実施した調査によれば、Facebookページを保有している企業は245社と、上場企業全体の15%となっていた。業種別の保有率では情報・通信(42%)に次いで小売業(30%)、サービス業(27%)と、消費者に近い業種を中心に活用が広がっているものと思われる。前出のSocialbakers社の統計では、国別・ブランド別のFacebookページのファン数、ブランドについて話している人数なども示されており、これらの上場企業と並び、有名・無名の中小・零細企業のFacebookページが多くの支持を集めている様がみてとれる。少なくともFacebook上では、企業規模の大小や知名度に関わらず、デザインや内容(コンテンツ)により、等しく消費者の評価の目にさらされ、結果(ファン数や話題にあげられる数)として現れるのである。昨今、Facebookのマーケティング活用が多くの企業に注目されている背景には、このように、ソーシャルメディアを通じて消費者間の情報共有がさらに容易になった現在、企業の競争優位の源泉が、もはや単なる「規模」や「伝統」にはなく、ファンを獲得・拡大していくための、消費者コミュニケーションの深化に向けた取組みにかかっていると考えられている点があるといえよう。しかし同様の議論は、例えば90年代後半にはWebサイトの開設で、2000年代前半には、検索サイト最適化により、それぞれ中小・零細企業でも大企業に伍していくことができる、といったように、Web技術の発達や、インターネット利用者層の拡大とともに繰り返されてきた。しかしながら、今までのところ、語られてきた理想には遠く及ばない結果が現実であったように思われる。
確かに、一部には大企業以上にファン数を集め、急速に成長している企業もあるようではある。しかし、東京のほか地方都市でも数多く開催されているソーシャルメディアの活用セミナー等においては、ファン層の拡大を通じた事業展開のあり方を主要なテーマとして謳いつつも、実際には消費者の興味を惹いたり、集客につなげたりする、いわば「売り込むための技術」に特化したものとはなっていないだろうか。消費者とのコミュニケーションを通じて関係を深める努力を惜しみ技術的な対応に走っていては、歴史を繰り返すだけに終わりかねない。人材や資金に勝る大企業に伍してファン層を拡大し、成長につなげていくためには、単に集客数を増やすための表面的な技術ではなく、消費者と真摯に向き合い、謙虚にコミュニケーションを深めていく、企業としての姿勢こそが求められているのではないだろうか。Facebookを初めとしたソーシャルメディアの活用を通じて、企業は改めて、消費者に対する姿勢を問われている。
(2012年06月05日「研究員の眼」)
井上 智紀
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