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悲観克服の経済効果は?

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
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景気が良いとは、経済活動が活況を帯びている状況のことである。その活気は、国民一人一人の活力や気力が結集されて作り出されるものだ。極論すれば、景気の良し悪しを決めるのは、国民の心の持ち方次第と言えないこともない。しかし残念なことに、国内景気を盛り上げるに足る十分な活力が見られない、というのが現状だろう。
国内経済は長らく停滞している。その原因として、人口減少や少子高齢化に伴う需要の減少、生産性の低下などが指摘されることがある。もちろん、リーマンショックや欧州債務危機、更には円高の進行なども、足元の景気浮揚を抑える要因だ。しかし無視できないのが、雇用や社会保障制度の先行き不安などによる、人々の心理の落ち込みや消費を抑制しようとする国民の態度であろう。
行動ファイナンスには、「アンカーリング効果」というものがある。新しい事実に直面しても人は過去に囚われて信念をなかなか変えないという心理的なバイアスのことだ。これによれば、長引く不況によって消費を抑えることが当たり前になってしまった結果、不況から中々抜け出せないと解釈することもできる。経済停滞の根底に人の心理が大きく影響しているという訳だ。
ならば、不安を不安と感じない心を持つことで、少しは状況に変化が生じるかもしれない。玄侑宗久氏は著書『禅的生活』の中で、「曲者」になることを勧めている。「不足」や「苦痛」など、本当に望まず、思うようにならないものを楽しむことが「風流」で、それを実践できる人が「曲者」だそうだ。
もしも全ての国民が過度な悲観から抜け出し、「曲者」になることができるのであれば、国内経済も随分と違った姿になるかもしれない。人々が心に余裕を持ち、ポジティブな思考へと切り替えることができるのであれば、それだけでも消費の増大が期待できるだろう。もっとも玄侑宗久氏は、厳しい環境におかれても幸せを感じて生活する術として「曲者」を勧めているのであって、経済の好転を意図して「曲者」になることを勧めている訳ではないだろうが。
では人々が悲観を克服することで齎される経済効果はどれほどであろうか。東京スカイツリーの経済効果は1700億円と報道された。話題性に富み人の気持ちを明るくさせる新名所の出現が、経済にプラスに働くことを考えれば、悲観克服だけでも相応のプラス効果が期待できる。しかしその一方で、景気押し上げ効果は極めて限定的と言わざるを得ない。
結局のところ、デフレ経済から脱却するために望まれるのは、将来への安心感や希望に繋がる、そして若者に元気を与える明確なビジョンではないだろうか。長期的な視点に立った明確な成長戦略が示されれば、人と経済はきっと活力を取り戻すことに違いない。
(2012年06月04日「研究員の眼」)

03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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