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1.人口減少と失われた20年
日本経済は1990年代初めにバブルが崩壊して以来、20年以上にわたって低迷を続けてきた。当初は不動産や株価など資産価格のバブルが崩壊し、金融システムが機能不全に陥ったことが経済不振の原因と考えられてきたが、長期間を経過しても日本経済はなかなか回復しない。これに対して、このところ何がその原因なのかを問う本が何冊か出版されている。(末尾の参考文献参照)
テレビ番組でも取り上げられたので、人口減少が日本経済が長期低迷を続けている原因だという説は耳目を集めた(参考文献4)。日本経済は、少子化によって人口構造が高齢化し、1995年をピークに生産年齢人口が減少に転じた。日本経済の低迷の始まりと生産年齢人口の減少の開始時期が近いことも、この説に説得力を与えたことは確かだ。しかし、人口増加率が低下すると必然的に日本経済の規模の拡大が遅くなることは昔から予想されていた話だが、そのためにデフレや生産性の伸びの鈍化などが起こるとは結論付けられていない。
2.経済活動はネズミ講にあらず
ネズミ講は参加者が無限に増加していかなくては成り立たないので、いつかは破たんする運命にある。だから、法律を作ってまでしてネズミ講に類する経済活動は禁止されている。日本経済が低迷を続けているのは人口が減少し始めたからだという説は、我々の経済活動はネズミ講だと言っているようなものだ。
しかし、まっとうな経済活動はネズミ講ではなく、人口増加がなくてもちゃんとやっていける。戦後の日本経済発展も人口の増加によって実現されたわけではなく、生産技術の進歩や教育の普及、法律や社会制度の整備によって経済成長が実現されてきたのだ。
だから日本の人口が減少していくからといって、日本人の所得水準や生活水準が低下していく運命にあるというわけではないし、いわんや日本経済が破綻するわけではない。ただ人口が減少する経済では、規模の拡大にだけ依存するネズミ講的なビジネスや仕組みは破たんするというだけなのだ。
3.求められる根治療法
財政危機を回避しようという努力に対して、それでは景気が悪化してしまうではないかという反対論は分からないではない。しかし、財政赤字や金融緩和による景気刺激策は、残念ながら病気を治す薬ではなく、いわば病気に伴う発熱や痛みに対する解熱鎮痛剤のような対症療法である。普通の景気悪化は、財政政策や金融政策でさらなる景気の悪化を食い止めておけば、そのうち経済の持っている自律的な回復力によって自然治癒する。
失われた20年ともなる日本経済の低迷は、これが普通の景気悪化ではないことを意味している。対症療法を続けていても自然治癒の見込みはないので、次第に体力が低下していってしまうし、どんな薬にでも副作用はあるものだから、優れた新薬と言えども投薬量を増やしていくと副作用がひどくなるのは避けられない。
日本経済の低迷は必然ではないわけだから、そうなる前に、病気の本当の原因を見つけて、それを治療する方法を見つけ出すことが必要だ。そのための議論が深まることを切に期待したい。
参考文献
- 「失われた20年と日本経済」日本経済新聞出版社、深尾京司
- 「新自由主義の復権 - 日本経済はなぜ停滞しているのか」、中公新書、八代尚宏
- 「成熟社会の経済学――長期不況をどう克服するか」、岩波新書、小野善康
- 「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く」、角川oneテーマ21、 藻谷浩介
- 「なぜ日本経済はうまくいかないのか」、新潮選書、原田泰
- 「日本経済が何をやってもダメな本当の理由」、日本経済新聞出版社、櫨浩一
(2012年04月09日「エコノミストの眼」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
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