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- 消費税をアテにしない“自律的な”制度見直しを~介護保険法改正~
コラム
2011年06月24日
6月15日、参議院で介護保険法改正案が可決され、2012年に予定される2回目の制度見直しに向けた法改正手続が済まされた。1年以上に亘って議論されたその内容は、大項目だけ挙げると、(1)医療との連携、(2)人材確保、(3)住まいの整備、(4)認知症対策、(5)保険者の役割強化、(6)保険料上昇の緩和、である。概ね、昨年11月30日に見直しの方向性として示された「意見」(社会保障審議会介護保険部会)に沿った内容であり、大きな枠組みの設定としては評価できる。もっとも、細かい部分では、来年4月までの半年間で、実態に即した合理的なルール設定や介護報酬改定による適切な評価の仕組み作りによって、現場が能動的に新しい環境を受け入れ、普遍的に発展・拡大していく“流れ”が生まれることが重要である。その意味では、ここからが本番なのであろう。
さて、改正案の中身をみると、これまでの制度見直しの議論との大きな違いがあることに気付く。前回2006年の制度見直しでは大命題とされた“おカネ”(介護財源)の話が全くと言っていいほど出てきていないことである。もちろん、地域包括ケアシステムの実現、保険者の役割強化などは、間接的には介護給付費の適正化(抑制)につながる話ではある。しかし、施設サービス利用者に居住費・食費の自己負担を求めた前回のような“おカネ”の問題を正面から採り上げた項目が見られない。介護保険の財源問題は6年前よりも、より切実さを増しているはずであり、ついこの前まで繰り返されていた「制度の持続可能性」の話はどこへ行ったのかと思うほどである。
その理由は何か。思うに、介護保険制度は同時並行で大々的に進められている「社会保障・税一体改革」による一定程度の財源確保をアテにし過ぎているのでないだろうか。そう考えると、今回の改正案の内容は、「介護財源・制度の持続可能性は“あっち”でやってくれるから、自分達(介護保険)はケアの仕組み、サービス内容の充実に専念すればいい」とも見えてくる。しかし、6年に1回訪れる重要な制度見直しの機会に自らが介護財源に働きかける見直し項目を引っ込めてしまうことは果たしてよかったのであろうか。6月20日に行われるはずであった一体改革の成案決定は案の定“先送り”の憂き目にあった。万が一、本当に消費税増税が先送りされれば、介護保険制度がアテにしていた大財源は無くなり、おカネのかかる制度見直しだけが行われることになる。そして、その状況では介護報酬がプラス改定となることは到底望めない。
かつて検討課題としてラインアップされていた「一定以上所得者の利用者負担割合の引上げ(1割から2割へ)」、「居宅介護支援費(ケアプラン作成等の費用)への利用者負担の導入」、「被保険者の年齢要件の引下げ(40歳未満)」は、もう一度キチンと議論を蒸し返すべきではないだろうか。もちろん、おカネのためだけに強引に全てを導入すべきという簡単な話ではない。ただ、「ここは消費税で凌いで、次に困ったときに出すカードとしてとっておく」のは真摯な対応とは言えないだろう。
重要なのは、“他”をアテにするのではなく、介護財源について介護保険の中で考える“自律的な”制度見直しを行う努力をストップさせないことである。
さて、改正案の中身をみると、これまでの制度見直しの議論との大きな違いがあることに気付く。前回2006年の制度見直しでは大命題とされた“おカネ”(介護財源)の話が全くと言っていいほど出てきていないことである。もちろん、地域包括ケアシステムの実現、保険者の役割強化などは、間接的には介護給付費の適正化(抑制)につながる話ではある。しかし、施設サービス利用者に居住費・食費の自己負担を求めた前回のような“おカネ”の問題を正面から採り上げた項目が見られない。介護保険の財源問題は6年前よりも、より切実さを増しているはずであり、ついこの前まで繰り返されていた「制度の持続可能性」の話はどこへ行ったのかと思うほどである。
その理由は何か。思うに、介護保険制度は同時並行で大々的に進められている「社会保障・税一体改革」による一定程度の財源確保をアテにし過ぎているのでないだろうか。そう考えると、今回の改正案の内容は、「介護財源・制度の持続可能性は“あっち”でやってくれるから、自分達(介護保険)はケアの仕組み、サービス内容の充実に専念すればいい」とも見えてくる。しかし、6年に1回訪れる重要な制度見直しの機会に自らが介護財源に働きかける見直し項目を引っ込めてしまうことは果たしてよかったのであろうか。6月20日に行われるはずであった一体改革の成案決定は案の定“先送り”の憂き目にあった。万が一、本当に消費税増税が先送りされれば、介護保険制度がアテにしていた大財源は無くなり、おカネのかかる制度見直しだけが行われることになる。そして、その状況では介護報酬がプラス改定となることは到底望めない。
かつて検討課題としてラインアップされていた「一定以上所得者の利用者負担割合の引上げ(1割から2割へ)」、「居宅介護支援費(ケアプラン作成等の費用)への利用者負担の導入」、「被保険者の年齢要件の引下げ(40歳未満)」は、もう一度キチンと議論を蒸し返すべきではないだろうか。もちろん、おカネのためだけに強引に全てを導入すべきという簡単な話ではない。ただ、「ここは消費税で凌いで、次に困ったときに出すカードとしてとっておく」のは真摯な対応とは言えないだろう。
重要なのは、“他”をアテにするのではなく、介護財源について介護保険の中で考える“自律的な”制度見直しを行う努力をストップさせないことである。
(2011年06月24日「研究員の眼」)
阿部 崇
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