コラム
2010年04月05日

金融政策と財政政策の境界

櫨(はじ) 浩一

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1.バーナンキ議長の評価

FRBのバーナンキ議長に対して、日本では、住宅バブルの崩壊で発生した金融危機に積極果断な対応を行っており、米国経済の回復に大きな役割を果たしてきたと評価は高い。しかし、米国では幾分様子が違うようだ。1月末に米議会でバーナンキ議長の再任可否を問う投票が行われた際には、かつてない数の反対票が投じられた。インフレ抑制のために強力な金融引き締めを行ったために評判が悪かった、ボルカー議長の再任の時よりも反対票が多かったというから、かなりの嫌われ方だ。金融危機後の大胆な政策発動を評価する声がある一方で、強欲なウォールストリートを救済した、金融危機を招いた、など様々な批判がある。とりわけ、将来の負担を招くような政策を行っているという批判が強く、結果として評価が大きく分かれたようだ。

2.あいまいな金融政策と財政政策の境界

経済学の教科書では、金融政策と財政政策が明確に区別されて説明されており、IS-LM曲線を使った説明など、その違いは大学や各種の資格試験問題に必ず出てくる定番である。しかし現実の世界では、財政政策と金融政策の境界線は、そんなにはっきりしたものではない。日銀がやること・できることが金融政策で、政府がやるのが財政政策、という割り切り方もあるだろうが、バーナンキ議長の再任投票の結果は、現実の経済政策はそんなに単純に割り切れないことを示している。

FRBはバーナンキ議長の下でリスクのある資産も積極的に購入することで、信用収縮の緩和を実現してきた。しかし、これらの資産からは将来損失が発生する恐れもあり、その穴埋めは結局国民が負担しなくてはならない。バーナンキ議長再任に対する抵抗には、選挙で国民の負託を得た議会が将来の国民負担を決断するのであればともかく、議会の手の届かないところで金融政策の名の下に将来の国民負担が決まっていくことに対する苛立ちもあるだろう。

3.金融政策はタダか?

日本では、国債を発行した経済対策には、あれほど将来負担に対する懸念が表明されるのに、日銀が何をしても大して不安の声が上がらない。むしろ政府関係者や国会議員などからは、及び腰の日銀の背中を押して、バーナンキのFRBのような積極果断な行動を促すような発言が多い。

タダの昼食(a free lunch)は無いといったのは、マネタリストの元祖、ミルトン・フリードマンだ。しかし、日銀に量的緩和を迫っている子孫達は、金融政策では国民負担は生じないと言っているかのように見える。人々は日銀がどんな政策を行っても、将来自分達にツケが回ってくることはない、日銀は将来問題が起きても国民の負担にならないように解決できる、と信じているのだろうか。中央省庁の官僚の世間からの評価はガタ落ちだが、依然として日銀職員の評価は高いということなのだろうか。
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