コラム
2010年03月15日

人民元問題に見る北風と太陽

櫨(はじ) 浩一

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1.活発化する駆け引き

膨大な貿易赤字を抱えている米国は、オバマ大統領が5年間で輸出を倍増するという計画を発表している。米国との貿易相手国に内需拡大や非関税障壁の縮小を求めることになるだろうが、為替政策も輸出促進の大きな柱になるはずだ。米国にとって最大の貿易収支不均衡を抱えている中国に対しては、最近人民元の切り上げを迫る米政府首脳の発言が相次いでいる。人民元が割安に過ぎるというのは誰の眼から見ても明らかだ。中国は2005年の為替制度改革以降徐々に人民元の切り上げを行ってきたが、サブプライム問題の発生によって切り上げを中止している。全人代を終えた温家宝首相は、人民元は過小評価されていないとの見解を表明し、人民元切り上げに対する海外からの圧力に反発した。
   世界的な協調姿勢を演出してきた各国も、金融危機が落ち着きを見せてきたことで、自国の利益優先となっていくだろう。世界的な国際収支の不均衡解消に課題が移っていく中で、人民元の切り上げを巡って駆け引きがますます活発になると予想される。

2.日本には効果的だった外圧

さて、日本の場合には、米国をはじめとした海外からの政治的圧力は、国内からの反発を買うこともあったが、どちらかと言えば外圧があったことで政策の転換が進んだことの方が多かった。外圧と言いながら、実は国内には政策の転換を求める人々がおり、内圧だったことも多かったと言われている。
   しかし、米国は人民元切り上げについてこれまで圧力をかけて来たが、中国は一向に動く気配を見せない。人民元のレートは1ドル6.8元付近に張り付いたままだが、このような為替のコントロールはルール違反である。米国にとって中国の対応は、まるで自分の姿を見ているようではないだろうか。大国は身勝手なもので、他国には国際的なルールの遵守を求めながら、自分は平気でルールを無視するものだ。残念ながら猫に鈴を付けるようなもので、皆不満には思っていても、力ずくで大国の行動を直すことは難しい。大国である中国に対しては、日本のようには外圧は効かないだろう。

3.北風よりも太陽

中国政府を人民元切り上げに向けて動かすのは難題だが、最もやっかいなのは大国意識を持った国民だ。海外からの圧力に簡単に屈するようでは、国内から弱腰という批判を食らうのは眼に見えている。中国政府としては、外圧で人民元を切り上げるというシナリオは何としても回避したいだろう。イソップの寓話にある「北風と太陽」の話ではないが、米国が人民元の切り上げについての圧力を強めればそれだけ中国政府としては切り上げを受け入れ難くなる。
   人民元のレートを介入で維持し続けると、国内のマネーサプライが増加してしまうので、いずれ現在の介入政策には限界が来る。暑さに耐えかねて中国政府が自ら人民元の切り上げ再開に動くために、実は何もしないで見守るということが中国を人民元切り上げに導く近道ではないだろうか。

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