コラム
2010年01月29日

財政赤字で何が起きる?~エコノミストはオオカミ少年か?

櫨(はじ) 浩一

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1.低位安定する長期金利

日本は大幅な財政赤字が続き、国債残高が経済規模に比べてどんどん増えて行くので、多くのエコノミストや経済学者が、いずれ国債金利が高騰したり、インフレを招いたりするなど、大変なことが起こると警告している。しかし、現実の日本経済はどうかというと、2009年度第二次補正予算で53兆円の国債発行が決まっても、2010年度予算で44兆円の国債発行によって、年度末の残高が637兆円にも達し、国と地方の長期債務の合計は800兆円を超え、名目GDP比でも180%を超えると見込まれていても、インフレも起こらず、長期金利は1.3%程度で落ち着いている。

2.エコノミストはオオカミ少年か?

子供の頃にイソップのオオカミ少年の話を聞かされて、ウソをついてはいけない、大変なことになる、と教え込まれた方も多いだろう。政府債務の累積に対してエコノミストは大騒ぎするが、日本では財政赤字が膨らんでも、国債残高の名目GDP比が上昇しても何事も起こらない。エコノミストや経済学者は、オオカミ少年のような嘘つきなのではないかという声も聞かれる。

政府債務が累積して経済危機に陥った事例としては、2001年のアルゼンチンや1998年のロシアの財政破綻のケースなどが良く知られている。いずれも国債を購入していた海外の投資家が、資金を引き上げ通貨危機が生じている。日本は大量の国債を発行しているが、そのほとんどは国内で消化されており、アルゼンチンやロシアのような通貨危機は生じないので、問題はないという見解もある。

3.オオカミ少年は嘘つきではなかった

しかし今後さらに高齢化が進めば、毎年発行される国債を購入する原資となっている家計の貯蓄が枯渇して、国債の消化を海外の投資家に頼らねばならなくなるだろう。それだけではなく、これまで家計によって購入されてきた国債が老後生活の資金をとして利用するために大量に売却されることも考えねばならない。

現時点では世界的な金融危機で大きく悪化している経済を立て直すことが喫緊の課題であり、とりわけ税収の落ち込みで発生する財政赤字を許容すべきことは、このコラムでもすでに述べた。しかし経済が安定した暁には、財政赤字の縮小の問題に正面から取り組むべきであり、消費税率の引き上げは避けては通れない道である。

オオカミ少年は嘘つきではなかった。何しろ最後には本当にオオカミが来て羊は食べられてしまったのだから。大幅な財政赤字を続けているといつかは大変なことになるというエコノミストの警告をどうか聞き流さないで頂きたいと思う。
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