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コラム
2009年12月28日
2009年のJ-REIT(不動産投資信託)市場を振り返ると、公的資金を活用した危機対応融資や「不動産市場安定化ファンド」創設といったセーフティネット整備に加えて、REIT間の合併促進に向けた会計・税制上の制度改正を受け4件の合併が発表されるなど、市場の頑健性・効率性が大きく改善する年であった。しかし、日本経済や不動産賃貸市場の先行き不透明感などから、東証REIT指数は2008年12月末の水準を下回って推移している。
また今年10月、日本アコモデーションファンド投資法人を皮切りに4銘柄が公募増資並びに物件取得を発表、機能不全に陥っていたJ-REIT市場本来のエクイティ資金調達、不動産の買い手としての存在感は、回復しつつある。今回の不動産市況低迷下における資金調達は、不動産取引市場の流動性回復、高利回り物件取得によるポートフォリオ利回り向上、LTV(負債比率)低下による借入コスト低減、投資余力確保、物件情報量の増加など多くのプラス効果をもたらす上、「J-REITは不動産価格上昇局面で物件を取得し、価格下落局面では取得できない?」との投資家の懸念も払拭できたと思われる。
ただし、投資口価格の回復が遅れるなかでの公募増資再開のため、4件全ての発行価額が1口当たり出資金(BPS)を下回るディスカウント増資となった。これまでもJ-REIT 市場では、第三者割当増資による希薄化が問題視されてきたが、公募増資ではBPSを1つの目線とし、大幅な希薄化を前提とする増資は極めて稀であった。それだけに、投資主利益の最大化を謳うJ-REITにとって、増資の意義は何かを改めて問われることになりそうだ。
たとえば、野村不動産レジデンシャル投資法人の場合、目論見書の想定発行価額約40万円(対BPS▲28%)に対して、実際の発行価額は想定を30%下回る約28万円(対BPS▲50%)、BPSは55万円から49万円へ11%希薄化することになり、これは既存投資主にとって5期分(2.5年)の分配金に相当する。
投信法(投資信託及び投資法人に関する法律)では、「募集投資口の払込金額は保有する資産の内容に照らし公正な金額」と規定しているように、資産運用会社は発行価額の公正性について投資主に説明責任を負っている。しかし、増資発表以降の投機的な価格下落までは防止できないであろう。昨年7月、価格下落を理由に公募増資を中止した例はあるが、既に資金使途が決まっている増資の取り止めは、その代償も大きく現実的には難しいと思われる。
リーマンショック以降浮き彫りとなったJ-REIT市場の構造的課題は、これまでの迅速な政策対応によって手当てされてきたが、依然としてエクイティ資金の調達手段は限定されたままである。今後、投資主利益を最優先する受託者責任への投資家の信頼が揺らぐことなく、公正な発行価額による資金調達を通じて長期安定資金を取り込んでいくためには、「潜在的な希薄化懸念⇒リスクプレミアム上昇(価格下落)⇒更なる希薄化懸念」という負のスパイラルを断ち切る必要があるのではないだろうか。
新聞報道によると、東京証券取引所は新株予約権を活用した株主割当増資の環境を整備し、企業が株主に配慮しながら柔軟に増資ができるよう上場規則を改定するようだ。J-REITは、投信法により新株予約権を発行できないほか、資金調達多様化に否定的な当局の見解などハードルは低くないが、J-REIT の資金調達のあり方について、上場企業と同じ土俵に立った議論の高まりを期待したい。
また今年10月、日本アコモデーションファンド投資法人を皮切りに4銘柄が公募増資並びに物件取得を発表、機能不全に陥っていたJ-REIT市場本来のエクイティ資金調達、不動産の買い手としての存在感は、回復しつつある。今回の不動産市況低迷下における資金調達は、不動産取引市場の流動性回復、高利回り物件取得によるポートフォリオ利回り向上、LTV(負債比率)低下による借入コスト低減、投資余力確保、物件情報量の増加など多くのプラス効果をもたらす上、「J-REITは不動産価格上昇局面で物件を取得し、価格下落局面では取得できない?」との投資家の懸念も払拭できたと思われる。
ただし、投資口価格の回復が遅れるなかでの公募増資再開のため、4件全ての発行価額が1口当たり出資金(BPS)を下回るディスカウント増資となった。これまでもJ-REIT 市場では、第三者割当増資による希薄化が問題視されてきたが、公募増資ではBPSを1つの目線とし、大幅な希薄化を前提とする増資は極めて稀であった。それだけに、投資主利益の最大化を謳うJ-REITにとって、増資の意義は何かを改めて問われることになりそうだ。
たとえば、野村不動産レジデンシャル投資法人の場合、目論見書の想定発行価額約40万円(対BPS▲28%)に対して、実際の発行価額は想定を30%下回る約28万円(対BPS▲50%)、BPSは55万円から49万円へ11%希薄化することになり、これは既存投資主にとって5期分(2.5年)の分配金に相当する。
投信法(投資信託及び投資法人に関する法律)では、「募集投資口の払込金額は保有する資産の内容に照らし公正な金額」と規定しているように、資産運用会社は発行価額の公正性について投資主に説明責任を負っている。しかし、増資発表以降の投機的な価格下落までは防止できないであろう。昨年7月、価格下落を理由に公募増資を中止した例はあるが、既に資金使途が決まっている増資の取り止めは、その代償も大きく現実的には難しいと思われる。
リーマンショック以降浮き彫りとなったJ-REIT市場の構造的課題は、これまでの迅速な政策対応によって手当てされてきたが、依然としてエクイティ資金の調達手段は限定されたままである。今後、投資主利益を最優先する受託者責任への投資家の信頼が揺らぐことなく、公正な発行価額による資金調達を通じて長期安定資金を取り込んでいくためには、「潜在的な希薄化懸念⇒リスクプレミアム上昇(価格下落)⇒更なる希薄化懸念」という負のスパイラルを断ち切る必要があるのではないだろうか。
新聞報道によると、東京証券取引所は新株予約権を活用した株主割当増資の環境を整備し、企業が株主に配慮しながら柔軟に増資ができるよう上場規則を改定するようだ。J-REITは、投信法により新株予約権を発行できないほか、資金調達多様化に否定的な当局の見解などハードルは低くないが、J-REIT の資金調達のあり方について、上場企業と同じ土俵に立った議論の高まりを期待したい。
(2009年12月28日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
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