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- サイコグラフィック変数を用いた新たな顧客セグメントの検討 -生保への関与・知識に基づく顧客セグメント試案-
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企業のマーケティングにおいて、セグメンテーションはターゲッティング、ポジショニングとともに不可欠のものとされている。生保においても、消費者セグメントに基づく商品開発や販売が行われているが、その多くは、性や年齢、ライフステージなどのデモグラフィックな属性を軸としたものによってきたのではないだろうか。少子高齢化の進展に伴う核家族世帯の減少や消費者のライフスタイルの多様化に対応していくためには、従来のデモグラフィックな属性によるセグメンテーションに加えて、消費者のニーズや関心などのサイコグラフィック変数を軸とした新たなセグメンテーションが求められる。
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知識や関与、知覚リスクといったサイコグラフィック変数を用いた潜在クラス分析によって消費者をセグメントしたところ、8つの潜在クラスに分類できることが明らかとなった。これらのクラスは、知識や関与の水準、知覚リスクの程度により異なるグループを形成しているが、同時に、高齢層を中心に形成されているクラス(1,3,5)や若年層を中心に形成されているグループ(2,7,8)など、性別や年齢構成等のデモグラフィック上でも差異がみられた。
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また、生保加入者に限定した直近加入時の加入プロセスおよび加入後の意識についての分析では、8つのクラスはそれぞれ異なる加入プロセス・意識を有している。特にクラス6、8では、主体的な検討を経て加入しており、納得度や満足度、継続意向も他のグループに比べ突出して高くなっていた。これらのクラスは、全体としてのボリュームは少数派ながら、年齢構成では保障中核層を含む若年層が中心であることや、推奨意向の高さから、他のクラスへの波及効果も考慮したより慎重な対応が求められよう。
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セグメントされた各クラスについてデモグラフィック属性による予測を試みた結果、60歳超で年収300 万円未満、資産1000万円未満では41.8%の確率でクラス3に属する、既婚で38歳未満、年収700万円以上の民間企業の正社員では47.9%の確率でクラス6に属する、24~28歳以下で年収100万円未満の自営業・自由業では42.2%の確率でクラス7に属する、など、いくつかのデモグラフィック属性の組合せにより、個々のセグメントに対する特定可能性が高まることが示された。このことは、顧客のデモグラフィック属性から当該顧客の属する可能性が高いクラスを想定することで、顧客とのコミュニケーション上、適切な手段やメッセージの選択可能性が高まることを意味している。デモグラフィックな属性と一対一対応するものではないことからくる不確実性はあるものの、顧客理解を深め、より適切なコミュニケーションを図っていく上で、こうしたセグメンテーションを活用する意義は大きいといえるのではないだろうか。
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生命保険商品は、消費者のライフサイクルと密接に関連した商品であり、デモグラフィック変数を用いたセグメンテーションは依然として重要であるといえよう。本稿では、サイコグラフィック変数を用いたセグメンテーションの結果をデモグラフィック変数と関連づけて示すことで、顧客理解を深める上で有効な示唆を得ることができた。しかし、例えば既存顧客の満足度の維持・向上にむけた施策の検討と、新規顧客を獲得するためのコミュニケーション手段の検討など、セグメンテーションの軸とすべき項目やセグメントの数は、それぞれの目的および投下しうるマーケティングコストにより異なってくるものと思われる。また、サイコグラフィック変数を用いたセグメンテーションの実務への活用を促進する上では、デモグラフィック変数や行動特性といった外部から観察可能な要因を用いた個々の消費者が属するセグメントの特定可能性を高めていくことも求められよう。これらは今後の課題である。
(2009年11月25日「ニッセイ基礎研所報」)
井上 智紀
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