コラム
2008年07月08日

21世紀版前川レポートを読む

櫨(はじ) 浩一

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1.キーワードは「若返り」

去る7月2日に、21世紀版前川レポートとも平成版前川レポートとも呼ばれる、経済財政諮問会議の「構造変化と日本経済」専門調査会報告「グローバル経済に生きる-日本経済の『若返り』を-」が発表された。今回の報告を、「新前川レポート」と呼んでいる記事も見かけるが、87年に発表された「経済審議会建議-構造調整の指針」が、新前川レポートと呼ばれていたので、混乱を避けるためにここでは今回の報告を「21世紀版前川レポート」と呼ぶこととしよう。

21世紀版前川レポートは、世界経済が旧計画経済諸国の市場経済化とデジタル革命によって劇的に変化し、インフレと貧困、資金移動の大規模化、地球温暖化の進行、賃金格差の拡大といった課題に直面していると指摘している。世界経済の構造変化への対応が遅れ、存在感も低下した我が国の再生のキーワードとして「若返り」をあげて、日本経済が、変化を恐れず、次々と新しいものが生まれる、活発な新陳代謝が行われる活動拠点(プラットホーム)となることを目指すことを提言している。

2.明確だった元祖前川レポートの問題意識

さて、専門調査会の初回に太田大臣が、サミットの議長国となる「日本経済がどういうメッセージを発するのかが注目されている」という挨拶をしているように、21世紀版前川レポートが現在日本で開催されているサミットを意識したものであることは明らかだ。実は86年の元祖前川レポートも、同年5月に開催された東京サミットで、日本の大幅経常収支黒字に非難が集中しないようにと策定されたものだった。

前川レポートを改めて読み返してみると、レポートの問題意識が極めて明確であることに驚かされる。1985年のプラザ合意による急激な円高進行という状況の中で、激化する欧米諸国との間の経済摩擦をいかにして緩和するのかが急務と考えられていた。研究会に検討を要請した中曽根総理の問題意識も、前川レポートを策定した「国際協調のための経済構造調整研究会」への参加者の問題意識も共通のものであっただろう。問題意識が明確であったために処方箋もまた明確となったと言える。

21世紀版前川レポートと元祖前川レポートとを比較すると、今回の報告の視野が広いことは確かだが、世界に向けたメッセージとしても、国民へのメッセージとしても、解決しようとしている問題が多岐にわたり総花的であるという印象は否定できない。

3.求められる問題の絞り込み

元祖前川レポートに対しては、1980年代後半のバブル景気を作り出す原因となったという批判もあり、「経常収支不均衡を国際的に調和のとれるよう着実に縮小させる」というレポートの問題意識そのものが正しかったのか、という疑問は残る。それにも関わらず、前川レポートが未だに構造改革のバイブルのように言われるのは、解決すべき問題を絞り込んだことで、なすべきことが明確になったところにあるだろう。

21世紀版前川レポートが指摘するように、日本経済が解決すべき問題は多岐にわたる。しかし、年金問題など過去の負の遺産という逆風と、ねじれ国会という困難な状況の中で、どう考えても福田内閣が多数の問題を同時に解決することは難しい。山積する問題はどれひとつとして放置できないものであり、解決に努力しなくてはならないことは当然だが、今求められているのは「その中でもこれに注力するのだ!」という明確なメッセージではないか。
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