コラム
2008年02月25日

サブプライム問題と日本のバブル崩壊

櫨(はじ) 浩一

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1.類似点と相違点

サブプライムローン問題に襲われた米国経済は、バブル崩壊後の日本経済のように、長期の低迷に悩むことになるのだろうか。サブプライムローンと日本のバブル崩壊との類似と相違が議論されている。

いずれも金融機関が大きな損失を被り、信用不安から金融システムが不安定となった。日本では量的緩和政策まで行ったにもかかわらずマネーサプライが伸びないという問題が起きたが、米国でも金融機関の融資態度が厳しくなっており、貸し渋りなどクレジット・クランチが懸念されているという点では、類似点がある。

一方いくつかの相違点も指摘できるだろう。日本の場合には、土地や株などの資産価格が上昇し、その後大きく下落したことで、家計のバランスシートも痛んだが、バブル経済の中で企業の過剰投資が大きかったために、企業部門のバランスシートの悪化が著しかった。この結果、家計消費や住宅投資も低迷したが、企業の設備投資の落ち込みが著しかった。

一方米国経済は、ホームエクイティローンなどを利用して家計が住宅価格の上昇を利用して借り入れを拡大させてきたため、現時点では家計部門に不安が大きいと考えられている。住宅価格の上昇が止まり下落に転じることで家計部門のバランスシートの悪化が懸念されている一方、企業部門については楽観的な見方が多い。住宅投資はすでに大きく落ち込んでいるが、現時点で懸念されているのは、家計消費が落ち込むことである。もっとも、仮に米国経済がリセッションに陥った場合には、企業の業績が急速に悪化することも予想されるので、企業の設備投資の大きな落ち込みに発展しないという保証はない。

2.先行きを分ける経常収支の状況

米国経済がリセッションに陥ってしまい、問題がさらに悪化した際の展開を考える上で、重要なポイントは経常収支の状況の差がもたらす為替レートの動きではないだろうか。

日本の場合には、大幅な経常収支の黒字を背景に、景気後退に陥って輸入の伸びが鈍化すると、円高が進んでしまった。輸入物価が下落して物価の下落を誘い、デフレから資産価格が上昇しにくいという状況を悪化させた。

一方米国の方はといえば、これまで大幅な経常収支の赤字が続いてきたので、リセッション入りすればドルがさらに下落する恐れが大きい。ドル安によって輸入価格が上昇し、景気後退に物価の上昇が加わるという、スタグフレーションに陥る恐れも大きい。スタグフレーションが起こったら最悪だという見方もあるが、金融機関や家計のバランスシート問題の解決にはデフレになるよりはましだろう。物価の上昇が続けば家賃や地代は上昇していくことになるので、資産価格は上昇の圧力を受けるようになる。債務の実質的な価値も物価上昇によって減少していく。日本がデフレで資産価格の下落が大幅となり、経済の低迷を長期化させたこととは大きな違いである。

もう一つはドル安が米国の輸出を促進し、景気の下支え要因となることだ。ドル安によって米国の輸出が有利になるので、鉱工業生産の拡大要因となることが期待でき、製造業の下支えになるだろう。もっともこちらの方は、米国経済の下支え要因になるという意味では米国以外の国にとっても良いことだが、日本をはじめとして米国への輸出に依存してきた世界経済にとっては、米国の輸入が大きく減速してしまうという意味で、頭の痛い問題ともなるだろう。

(2008年02月25日「エコノミストの眼」)

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