2007年12月26日

投資の価値評価における心理的リスク・プレミアム

石井 吉文

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1.
本研究は証券価格、特にワラントの市場価格の理論値からの歪みの一因を投資家の効用に求め、逆に、市場価格の歪みの大きさから投資家の効用関数を推計しようとする一つの試みである。
2.
そもそも実際の証券市場における価格は、将来の期待リターン、リスクの程度に基づいて、人々の主観的な判断によって決定されるものである。ところで、リスクに対して中立的な(回避的でも選好的でもない)投資家がいた場合、そこでの評価は将来の期待リターンのみに基づいたものとなる。よって市場がすべてリスク中立な投資家で構成される場合、リスクの程度にかかわらず、期待リターンのより高い投資対象に投資が集中し、低リターンのものが淘汰される結果、世の中の全ての投資対象の期待リターンは等しく無リスク金利と同一ということになる。
3.
派生証券(デリバティブ)等の価値評価を行う場合、こういったリスク中立な投資家を前提とするのが一般的である。デリバティブの一つであるオプション、ワラント価格の評価方法で有名なブラック&ショールズ式(Black&Scholes,1972:以下ではB・S式とする)は、まさに、将来のペイオフ(損益曲線)に基づくリターンの期待値を現在の派生証券の理論価格とするものである。
4.
しかしながら、一般に人々は同じリターンであればリスクの小さいものをより好み、リスク回避的であることが知られている。リスク回避的な投資家ほどリスクの高いものに対して求めるリターンも高くなり、無リスク資産のリターンとの差が、いわゆるリスクプレミアムである。そして、現実にリスクのある投資対象の市場価格はこういったリスクプレミアムが反映されて決定されている。
5.
本研究は、投資対象の将来の期待リターンに基づいた理論価格(リスクの反映されない価格)と、リスク回避的な投資家がもたらす現実の価格(リスクの反映された価格)との差に注目するものである。特にワラントのように将来のペイオフが満期時点における原資産の価格に対して左右対称でない場合、その理論価格と現実の価格の差は、市場関係者の間でよく知られている、ある特徴をもった曲線(ボラティリティスマイル)で表される。
6.
本研究で、リスクプレミアムを議論するにあたり、投資対象として、ワラントを取り上げた。リスク回避的な投資家の影響によるワラント価格形成について確認し、そこで見出される実勢価格の理論値からの歪みについて検証した結果をもとに、投資家のインプライド効用関数を推計することとした。
7.
本研究の結果、心理学者であるTversky&Thalar の推計していたものと極めて近い形状が描き出された。つまり、単なる心理学の研究成果が金融分析にも応用可能であることの一つの検証という目的も達することができたのではないかと考える。

(2007年12月26日「ニッセイ基礎研所報」)

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