コラム
2007年08月22日

「誰でも入れる保険」はすべての消費者にやさしい保険か?

生活研究部 井上 智紀

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医療保険を中心として生保各社は商品開発にしのぎを削っている。最近の傾向としては、加入時の条件や保険金・給付金の支払要件をシンプルにして、消費者のわかりやすさや加入のしやすさを訴求した商品が中心となっているようである。CM等でも「わかりやすい」、「加入しやすい」といった表現を目にする機会が多い。

このような商品(以下、加入条件緩和型保険と呼ぶ)が開発されている背景には、持病があり従来からの保険には加入できない高齢層の増加や、年末に予定される銀行窓販の全面解禁を控え、銀行員にとっての説明のしやすさ、ひいては消費者へのわかりやすさを前面に出すことで、より多くの販売につなげたい保険会社側の意向があるものと思われる。

わかりやすくシンプルな「加入条件緩和型保険」は、消費者が商品の内容を十分理解し、自身のニーズに則した商品選択を容易にするとともに、売り手側にとっても問合せや苦情への対応といった事後的に発生しうるコストの削減にもつながることが期待されるなど、保険会社、消費者双方にメリットのある、よい商品であるようにみえる。病歴や持病があり従来型の保険に加入できない人は、急速に進む高齢化に伴って今後ますます増えていくことが予想される中、このような商品の発売は、健康上の問題を抱える消費者に新たな保障の途を拓くという点で、福音でもあるだろう。

このように、一見良いことづくめに見える加入条件緩和型保険に、落とし穴はないのだろうか。

保険商品は、人々が抱えるリスクを、加入者が保険料を公平に負担することで相互に支えあうよう、設計されているものであり、同じ保険に加入する人々はそれぞれ同程度のリスクを抱えていることが大前提となっている。加入条件緩和型保険は、限られたいくつかの要件を満たせば、持病や病歴があっても加入することができる点で、大変優れた商品ではある。しかし、このような前提に立ち返って考えてみれば、健康上の問題のない消費者にとっては、本来、自身の健康リスクに見合わない割高な保険料負担を強いられる可能性があることに気づくだろう。

多くの加入条件緩和型保険が、通常の保険より割高であることや、加入にあたっては一般の保険とあわせて検討するようにとの注記をパンフレット等に記載し、消費者の注意を促しているとおり、簡単で加入しやすい商品=すべての消費者に優しい商品ではないのが現実である。売り手側が顧客の状況よりも説明や契約手続の簡便さを優先するようなことがあれば、将来に禍根を残すことにもなりかねない。

加入条件緩和型保険そのものは、今後さらに増えていくであろう、病歴や持病を抱える消費者にも保障の途を開く有益な商品である。将来の無用なトラブルの火種としないためにも、保険販売の現場においては、顧客にとって最良の選択とは何か、を念頭においた活動を期待したい。
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