2007年08月03日

8月ECB政策理事会~9月利上げに布石、市場の調整を注視

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■見出し

・インフレ・リスクへのスタンスを「強く警戒」に引き上げ
・経済指標はピーク・アウトしつつあるが、なお強さを保つ
・注目される9月理事会後のコメント、見通しの改定内容

■introduction

・電話会議終了後、記者会見を開催
2日、欧州中央銀行(以下、ECB)の8月の政策理事会が、当初予定通り、電話会議の形式で行われ、政策金利の据え置きを決めた。会議終了後、当初予定されていなかった記者会見が、プレス・ブリーフィングとして開催され、トリシェ総裁が通常よりも簡単なコメントを述べた後で、質疑応答が行われた。
今回のトリシェ総裁のコメントと質疑応答のポイントは以下のようなもので、経済の力強い拡大が続いていることを受けて、インフレ・リスクへのスタンスを「強く警戒」に引き上げ、9月利上げに布石を打つ一方、9月以降については明言を避け、今後の情勢の変化、特に調整過程にある市場の動きを注視する姿勢が強調された。
(1) インフレ・リスクのスタンスは、「注視」、「特に注視」、「強く警戒」の3段階のうち最も強い「強く警戒」に引上げられた。質疑応答では、「強く警戒は(翌月の利上げを示唆する)従来と同様の意味で用いた」とする一方、9月以降については「事前の約束はしない」とし、「事実と指標、情勢の変化を見極めた上で判断する」ことを強調した。
(2) 景気に関しては、「前回理事会後の情報によって(安定した成長という)見通しは確認された」とし、質疑応答では「IMFの世界並びにユーロ圏経済見通しの上方改定」や「失業率が過去26年で最も低い水準にあること(6月:6.9%)」に大いに注目すべきと述べた。
(3) インフレ・リスクは「上振れ方向」にあり、リスク要因として、原油価格の上昇、設備能力の制約、賃金とコストの上昇圧力について言及した。
(4) 市場は「リスクの再評価」という「デリケートな局面」にあり、市場の動向、特にセンチメントの変化は“need careful monitoring”として強い警戒を示した。ドイツの中堅金融機関のサブプライム投資による損失が表面化し、金融危機への懸念が広がっていることに関する質問に対しては、ECB理事会のメンバーであるドイツ連銀のウェイバー総裁による「金融危機への懸念には全く根拠がなく、米国の不動産市場へのエクスポージャーは全体としては限定的である」とする公式見解に「付け加えることは何もない」と述べた。

(2007年08月03日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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