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- 男女比が迫る社会制度の変更
1. 大都市も結婚難
嫁不足と言えば農山村の話と思われることも多いが、実はそうではない。例えば25歳から39歳までの男女の人口比を全国で見ると、女性1人に対して男性は1.02人だが、神奈川県では女性1人に対して男性は1.10人である。同年齢の未婚の人に限ってみれば、全国平均では女性1人に対して男性は1.40人で、神奈川県では女性1人に対して男性は1.59人である。男女の人口比が1から乖離していて伴侶を見つけ難いという点から言えば、実は大都市である神奈川県の方が地方よりもよほど「嫁不足」であるということになる。
実は男性の結婚難は、大都市、地方を問わない、日本全体に及ぶ問題なのだ。
2. 急上昇する男子の未婚率
少子化の背景としてさまざまな要因が指摘されているが、結婚した女性が産む子供数が減少しているだけでなく、結婚しない女性が増加していることも、出生率低下の大きな原因である。50歳時点で未婚である人の割合は、生涯未婚率と呼ばれているが、女性の生涯未婚率は1950年の1.45%から2000年には5.82%に上昇した。
しかし、驚くべきことは男性の生涯未婚率の上昇速度である。下のグラフのように、かつては男性の生涯未婚率は女性よりも低かったが、2000年には男性は12.57%となり、女性の5.82%を大きく上回っている。一人の女性が結婚しないことによって男性が一人結婚しないことになるということであれば、男女の生涯未婚率の上昇はほぼ同じ速度になりそうだが、実際には男性の生涯未婚率の上昇速度は女性よりもはるかに速い。実は、生まれる子供の男女比をみると男の方が少し女よりも多いということが、男性の生涯未婚率の急上昇の背景にあるのである。

3. 求められる「標準」の変更
日本では出生児の男女比は1.06程度である。一人っ子政策を続けている中国では跡取りとして男子を望むこともあって、0~4歳の人口では男女比が1.14にもなっている。男女比が1でないのは日本の場合にはこうした人為的な理由ではなく、自然の摂理の結果のようだ。「一姫二太郎」と言われることがあったのは、女の子の方が男よりも病気などの点で育てやすいからだともいう。かつては男子の乳幼児死亡率は女子に比べてはるかに高く、また戦争や事故などで死んだりすることも男子の方が多かった。このため結婚する年齢に達する頃には男女の人口比はほぼ1となって、男女の人口比が問題になるようなことは無かった。しかし医療の発展によって乳幼児死亡率が低下すると同時に男女の死亡率の差も縮小している。

2006年の平均初婚年齢は、夫30.0歳、妻28.2歳で縮小してはいるものの依然として夫の年齢が妻よりも若干高い。出生率が低下していることでより若い世代の人口が少ないという状況と、夫の年齢が妻よりも高い傾向があることが、さらに性比の不均衡の影響を拡大している。
2000年の国勢調査では、50歳の男性が107万人いて、そのうち未婚だった人は13万人もいた。未婚女性の増加は出生率に影響するのでよく議論される。男性の方は出生率には直接関係してこないので軽視されがちだが、数の上で男女の人口比がこれほど違うということは無視できない事実である。女性の結婚観の変化だけでなく人口構造の観点からも、結婚して子供を育てるというライフスタイルは、必ずしも「標準的」なものではなくなっていることを前提に、もう一度社会制度を見直す必要があるだろう。
(2007年07月02日「エコノミストの眼」)
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